↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/38

第29話 残しておく端

布袋の底へ、白い包みを入れた。


 残ったずきんの一角だった。最後にもう少し歩かなければならなくなった時のために、リタはそこだけを分けておいた。


 叔母は袋の持ち手をリタの手首から外した。


「巻かないでね」


 リタは頷いた。首を引かれた痛みは、まだ覚えている。


 鋏と、紬の紙の写しを持っていくことにした。籠は家に残す。


「全部なくなるかもしれない」


 リタが言うと、遥は布を見た。


「嫌だよね」


「うん」


 遥はなくならないとは言わなかった。


     *


 日曜の昼、地上の自転車修理店と地下の靴修理屋には、叔母が先に話を通していた。


 人が出た時の待つ場所も空けてもらった。


 遥は白いタイルの上から案内板を見た。


 あの裏に黄色い線があった。


 膨れた板を右足で踏み、肩を壁に擦った。足が覚えている場所は、そこまでだった。


 紬の家の地図を何度見ても、その先は増えない。


「同じ所へ、戻るんだね」


 リタが言った。


「うん。知らない床には出せない」


「遠くにいても?」


「迎えに行く方の道は、分からない」


 リタは地図を畳んだ。


「じゃあ、わたしが戻る」


     *


 いったん家へ戻ると、リタは冷蔵庫を開けた。


 四つのリンゴがあった。出して持っていきたくなったが、今日は置いておく。籠の中には、森へ持ち帰る紙が残っていた。


 遥が玄関で靴を履いていた。


 リタは短い赤い糸を持っていき、左の袖口に結んだ。机の脚で切った、もうどこへも続かない端だった。


「目印?」


「うん」


 結び終えても、リタは袖を放さなかった。


 遥が待っている。


「帰ってきたら、怒っててもいい?」


 遥は少し驚いた顔をした。


「いいよ」


 リタはようやく手を離した。


     *


 紬の家では、水が細くなっていた。


 佐伯さんが空き缶を洗い、少しずつ汲んでいる。まことも一個選んで、胸へ抱えた。


 道を探していた二人が戻った。


「別の家に、二人いる」


 年を取った女性と、茶色い靴の青年。廊下が細くなり、こちらへ連れてこられなかったという。


 紬は紙へ丸を二つ増やした。


「ここから出る時、知らせられる?」


 眼鏡の人が頷いた。


「道が残っていれば」


 九つの丸を描いた紙の上で、まことの缶から水がこぼれた。


 紬は急いで紙を上げた。丸の一つが滲み、そこだけ描き直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。