第27話 黄色い線
木曜、遥は学校を休んだ。
起こされた時、まだ夜だと思っていた。リタも遅く食卓へ来て、窓を眩しそうに見た。
「昼?」
「朝」
叔母が皿へパンを載せた。
昨日のことは、食べ終えるまで話さなかった。
「交換はしない」
遥が言った。
「リタを渡さない。私が代わりに行くのもやめる」
「考えたの?」
「うん」
「それだと紬、一人で帰ってくる」
遥はパン屑を指で寄せた。返す言葉がなかった。
紬の最後の紙は、食卓にある。
狼が噛んだ時に、こちらの机が見えた。リタも靴修理屋で、同じように向こうの床を見た。
「噛んでる間は、歩けるかもしれない」
リタが言った。叔母はすぐに頷かなかった。
「入るつもりなのね」
「入らないと、紬の所まで道を残せない」
「帰りは?」
リタは遥を見た。
遥は右手を机に置いた。紬の床を、どんなに細かく教わっても駄目だった。ここでまた図を描いても同じだろう。
思い出したのは黄色い線だった。
右の靴底が傾いた。膨れた板を踏み、肩を壁へ擦った。リタが糸を結ぶ間、柵のそばに立っていた。
「あの床なら、踏んだ」
遥は言った。
リタが顔を上げた。
「助ける人を、そこまで連れてこられる?」
リタはすぐには答えなかった。
「紬の所が、どこか分からない」
「うん」
「歩いてみないと」
叔母は冷めたカップを両手で包んだ。
「それで、あなたが戻ってこないのは困る」
リタは膝の布を押さえた。
「わたしも」
*
紬の家では、引き出しが開かなくなっていた。
佐伯さんが諦めて手を離す。横の壁が近づき、取っ手を引く隙間がない。
まことは食卓の下に潜っていた。
「ここも、なくなる?」
紬は膝をついた。
大丈夫と言いかけて、飲み込んだ。机と壁の間には、昨日まで人が一人座れた。
「動いたら、一緒に隣へ行こう」
「お姉ちゃんは?」
「私も行くよ」
「外のお姉ちゃん」
紬は黙った。戸の裏には、切れた赤い端がある。触れても何も引き返してこない。
姉は、切れただろうか。
自分でそう書いたのに、糸が動くのをまだ待ってしまう。
台所の奥で板が鳴った。
紬はまことに手を差し出した。




