32.全面衝突
レーニ自治区と隣国クレゾン王国との国境付近。レーニの内戦の混乱に乗じ、クレゾンの兵が侵攻を繰り返していた。
「ゆけ!! 突撃、突撃だ!!」
世界中から武具や防具を買い漁っていたクレゾン王国。その豊富な物量で内外の憂いに苦しむレーニ暫定政府軍を追い詰める。
「退くな、戦え、戦え!!!」
対するレーニも一方的に負けることはない。魔王軍に壊滅させられてからの復興。苦しみに耐え、額に汗水流して築いた新たな生活。それを守るのに皆が一団となって抗戦した。
「ねえ、そろそろいい~?」
亜麻色の髪にタイトな黄色のドレス。おおよそ戦場に似つかわしくないその美しき女性が甘い声で側近に尋ねる。側近が戦況を確認し答える。
「も、もう少しお待ちください、キュール様。まだ敵味方入り乱れて……」
「いいじゃない、もう」
「あ、お待ちを!!」
キュールと呼ばれた女性は小さなステッキを手に、前へと駆け出す。そして前方で戦っている敵味方の集団に向けてそのステッキを小さく回して言う。
「雷撃共鳴」
ドン、ドオオオオオオオン!!!!
「ぎゃあああ!!!」
「うがああああ!!!!」
一瞬で現れた雷雲。辺りを包み込んだかと思うと、そこから雨霰のように雷撃が皆の頭上へと降り注いだ。悲鳴を上げて倒れる兵士たち。無差別雷撃攻撃。常識無き行動に両陣営から震える声が上がる。
「キャハハハ~、ねえ……」
甲高い声で笑いながら戦場を歩くキュール。そして座り込み震える新兵に尋ねる。
「ねえ、私、可愛い?」
「へ?」
恐怖でしかなかった。新しく徴兵された彼にとって、元勇者パーティの一員で『雷帝』と呼ばれる彼女は畏怖の対象でしかなかった。目を見開き震える新兵。すぐにその隣の兵士が答える。
「か、可愛いです!!!」
「そう……」
それを聞いたキュールは一瞬嬉しそうな表情を見せた後、悲しんだ声で言う。
「そうよね。こんなに可愛いのに……、どうして……」
声を掛けられた新兵は思い出した。このクレゾン王国軍にある『雷帝』に対する特別な軍規を。
「キャハハハ!! 雷撃共鳴、雷撃共鳴!!!」
キュールは狂ったように笑いながら近くの山に向かって駆け出す。そしてまるで何かに憑りつかれたかのように雷撃で山を攻撃し始める。
倒れた多くの兵士。残った者たちは、その美しい魔導士の奇行をただただ呆然と眺めることしかできなかった。
「全軍、突撃!! 傀儡政権を打倒せよ!!!」
そしてそのレーニ自治区の中心でも、同様に兵による激しい衝突が起きていた。
「うおおお!!!!」
「ダスリンを倒せ!!!!」
王都レーニ北側にある貴族地区。そこから突如雲のように湧き出した数多の兵士。暫定政府軍に引けを取らない強固な装備で身を固め、剣聖大臣サルベールを先頭に進撃を開始する。
「守れ!! 何がなんでも守るんだ!!」
対するレーニ暫定政府軍は、突然の奇襲に虚を突かれる形となった。準備が不十分の中、応戦を強いられる兵士たち。その上、市民や街に被害が出ないよう戦わなければならない。それでも数で勝る暫定政府軍。緒戦は辛うじてその戦いは拮抗していた。
「怯むな!! 我らが正義、我らこそレーニ正統王国を復活させる者!!!」
剣聖大臣サルベール。青き髪のイケメンで、大剣を天に掲げ、そう皆を鼓舞すると王国復古派は一気に活気づく。
「きゃあああ!!」
「助けてくれ!!!!」
一方で剣や魔法、激しい戦いの中、その被害は市民や建物へと広がっていった。巻き沿いを受け倒れる市民。粉塵を上げ崩壊する建物。燃えあがる炎。王都レーニは混乱を極めた。
「うおおおおお、はあっ、はああ!!!!」
そんな暫定政府軍の中でも、飛び切り目立つ将がいた。白髪のおさげ。両手には美しい装飾の宝剣。ダスリンの娘クリスナである。
「クリスナ様!!」
「大将!!!」
十代半ばでありながら誰よりも多くの戦場を経験し、誰よりも多くの鍛錬を積んできた。生まれ持った才能。内戦と言う過酷な環境。そして暫定政府の最高責任者の娘と言う立場。様々な要因が絡み合い、クリスナは誰もが一目を置く強固な将になっていた。
「現れたな、おさげの女よ」
後方でじっと戦況を見守っていたベルサールが、その鬼神が如く戦うクリスナを見て言う。まだ実践で剣を交えたことはない。やれば勝てるだろう。だがそんな必要はない。
クリスナの活躍で押され始めた王国復古派。ベルサールがそっと手を上げ側近に合図する。
「控えろ!! お前たち!!!!」
ベルサールの大きな声が戦場に響く。一瞬動きが止まる兵士。そして皆がベルサールの後方に現れたその人物に目を向ける。ベルサールが叫ぶ。
「このお方はレーニ王国の第三王女、ユーリシア・サッド・レーニ様である!! 我々は今ここに、正式に王国の復活を宣言する!!!!」
「「うおおおおお!!!!」」
それは玉座のついた神輿のような乗り物に座らされたユーリシア。頭にはレーニの王冠、眠らされているのか目を閉じ座ったまま動かない。
「第三王女……」
「本当なのか……?」
暫定政府軍に動揺が走る。王族は皆魔族によって殺された。だから皆は新たな政府作りに賛同している。だが、もし仮に王族が生きているのならば話は別。正統なレーニ王国の復活が可能になるからだ。
「惑わされるな!!」
「偽者に決まっている!!!」
それを必死に否定する暫定政府の将たち。だが一度振られた賽はもう止められない。
「我らこそ正義!! 控えろ、反逆者め!!!」
王国復古派軍が勢いを増す。十分な兵力。装備。そして戦う理由。彼らの士気は最高潮に達していた。
「……ん、なに?」
叫び声、爆音。街が崩壊する音。玉座の上で眠っていたユーリシアがゆっくりと目を覚ます。
(え!?)
その光景に唖然とした。
どこか知らない街。戦い合う兵士たち。逃げ惑う民。崩れる建物。体が震えた。そう、ここはレーニの街。武力衝突が起こったのだ。
「やめて!!!」
玉座から立ち上がったユーリシアが叫ぶ。振り返る一同。サルベールが言う。
「お目覚めですか、ユーリシア女王」
神輿のような不安定な足場。ユーリシアが玉座に掴まりながら言う。
「すぐにやめて!! どうして同じレーニの人たちで争うの!?」
サルベールが答える。
「簡単なことですよ。彼らが反逆者ですから」
「そんなこと……」
何かを言おうとしたユーリシアより先にサルベールが言う。
「正しく言えばあなたのお陰で、彼らが反逆者になったと言うのが正解でしょう」
「!!」
ユーリシアは気付いた。立ち上がった自分を見つめる皆の視線の異常さに。
「おお、ユーリシア様だ!」
「あの瞳、あの髪、まさにレーニ王族のもの……」
不本意ながら彼女が目を覚ましその存在を知らしめたため、正義は王国復古派へと傾いた。サルベールが大剣を振り上げ皆に叫ぶ。
「さあ、我らの勝利に祝福を!! 正統レーニ王国復古に向け……」
「待ちやがれ!!! サルベール!!!!!」
そんな彼の前に、全身返り血を浴びた白髪の少女が現れる。
「ほお……」
サルベールがその少女をじっと見つめる。十代半ば、白髪のおさげ。両手には装飾美しい宝剣。暫定政府軍の将がひとり、クリスナ・マーモルド。ダスリンの娘だ。クリスナが叫ぶ。
「私と勝負しろ!! サルベール!!!!」
サルベールが大剣をクリスナに向け答える。
「いいだろう。あの日、あのすべてを失ったあの時から、私が築いて来たすべてをお前に教えてやる」
大剣と装飾美しい双剣。両軍の将がここに初めて衝突する。




