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拝啓、勇者様。以前、あなたに救われた者達が悪さを始めました。どうかまたお助け下さい。  作者: サイトウ純蒼
第四章「自惚れ剣聖大臣ベルサール」

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31.王都騒乱!!

 王都レーニの北部にある貴族地区。レーニ王国時代より特権階級が暮らすある意味治外法権のような場所。より早く復興を成し遂げ、威厳を示すかのように豪邸が建ち並ぶ。魔王襲撃から十年以上の時を経て、その荘厳さは以前と変わらないものへとなりつつあった。


「よく集まってくれた」


 その領地の中央に立つ、青を基調としたより華やかな豪邸。地下に作られた広い会議室に集まった同志を前に、その青髪のイケメン大臣ベルサールが力強く言う。



「魔王軍襲撃と言う惨劇、その混乱に乗じて下賤な商人がこの気高きレーニの地を不法に統治している。あの時に我らには力がなかった。地位や名誉、才能や能力はあれど、軍を失った我々には奴らに対抗する術がなかった」


 ベルサールが悔しそうな顔をする。集まった大勢の煌びやかな衣装を着た者たちが、じっとその演説に耳を傾ける。


「だけど今は違う!!」


 ベルサールが机をドンと強く叩き叫ぶ。


「我々は復興の傍ら、仲間を集い、兵を鍛え、装備を整えて来た!! 不当な迫害に耐えてきたこの十年。ついに我らが正統なレーニを取り戻す日がやって来た!!」


「「おお!!」」


 集まった者たちが右手を上げそれに答える。ベルサールの背後に置かれた白いベールに包まれた玉座を指差し高々と叫ぶ。



「私はレーニの正統後継者である第三王女、ユーリシア・サッド・レーニ様の保護に成功した!!」


「本当か!?」

「それは素晴らしい!!」


 取り払われる白きベール。その中には豪華な玉座に眠ったまま座る金髪の少女ユーリシア。ベルサールが部下から渡された王冠を手に皆に言う。


「ユーリシア様には女王として我々を導いてもらう。今は疲労で眠られているが、もう我々に躊躇は要らない。本日、総力戦を持ってこの腐敗した暫定政府を打倒する!!!」


「「おおーーっ!!!」」


 集まった元貴族や大臣らが威勢よくそれに答える。ベルサールが言う。



「本日の太陽が真上に登りし時、各邸にて待機させてある勇軍の蜂起をお願い致す!! 各々方、気を引き締めて参られよ!! 先陣は剣聖大臣を賜ったこのベルサール・ダズモンドが務める! 何卒お任せあれ!!!」


 ダスリンら暫定政府軍から『鬼神』と恐れられる剣聖大臣ベルサール。彼を中心とした王国復古派《レストア・レーニ》の蜂起が今始まろうとしていた。






 一方のダスリンら暫定政府にもその異変は伝わっていた。


「ダスリン様、王国復古派《レストア・レーニ》におかしな動きが見られます」


 同じ日の朝。会議に出席したダスリンに幹部が報告した。集まった暫定政府の閣僚。丸テーブルに着きその報告を聞く。


「王都北部にある旧貴族地区。そこに数日前から多くの兵士らしき者たちが集まって来ているそうです」


「多くの兵だって!?」


 閣僚のひとりが声を出す。旧貴族地区とは言え、今は暫定政府の管理下。詳細な確認はできないが、そんな異変があれば巡回している兵士から報告が来るはず。ダスリンが言う。


「何度も申し上げますが、私たちに彼らと争う気はありません。同じレーニの民。力を合わせて未来を創っていくことが重要です」


 静まり返る一同。堪りかねた閣僚のひとりが言う。


「ですがダスリン様。現に彼らは我々に対して敵意を剥き出しにしております。小競り合いも頻発しております。有事には備えるべきかと」


「分かっています。だけどそれは私たちの敵意も影響しているのではないですか?」


「……」


 ダスリンは最初から争いを望まない。手を取り合ってレーニを復興したい。ただその想いはこれまで実を結ぶことはなかった。ダスリンが言う。



「皆さんに朗報があります」


 一同が嬉しそうな顔をするダスリンを見つめる。


「このレーニの地に、あの勇者アルド様が来てくださいました」


 ざわめく一同。勇者アルドと言えばその昔魔王軍と戦い、このレーニを救ってくれた英雄。ダスリンは場の空気が変わったことを感じながら娘のクリスナに尋ねる。



「クリスナ。アルド様は今どちらに?」


 案内役を命じておいたクリスナと共にいない。自由を好むアルドだから、またどこかで油でも売っているのだろうとその時は思った。


「……」


 下を向き、黙り込むクリスナ。皆の視線がその白髪のおさげの少女へと向けられる。ダスリンが改めて言う。


「クリスナ、アルド様はどこかと聞いているのですよ?」


 クリスナが顔を上げ訴えるように言う。



「母様! あいつは勇者などではありません!! 敵の、王国復古派《レストア・レーニ》の一味です!!」


「!!」


 皆が驚き、場の空気が凍り付く。勇者アルドが王国復古派《レストア・レーニ》? 堪りかねたダスリンが立ち上がり言う。


「どういう事です!? 何を言っているの!!」


「あいつは奴らの味方をした!! 母様は騙されているんです。あんな怪しげな奴が勇者アルド様なはずがない!!」


 口を両手で押さえ真っ青になるダスリン。弱々しい声で尋ねる。


「それで、それでアルド様は今どこに……?」


 今度はクリスナが両手で机をバンと叩き、大声で言う。



「追放したわ!! この街に二度と来ないよう永久追放した!! 当然でしょ??」


「な、なんて事を……」


 青ざめるダスリン。静まり返る一同。暫定政府の最高責任者と、その娘で軍の将の言い争い。頭を抱える母親と興奮して目がギラギラと輝く娘。そこへ更なる凶報が舞い込む。



「た、大変です!!!!」


 暫定政府の閣僚会議。この重要な場に報告される報せと言うのは、ほぼ悪い知らせであることは間違いない。顔を上げたダスリンが尋ねる。


「どうしたんですか?」


 兵士が答える。


「はっ! ベルサール率いる王国復古派《レストア・レーニ》が、貴族地区にて一斉蜂起。軍を成してこちらへ向かっております!!」


「な、なんですって!?」


 貴族地区とは言え同じレーニの街。どうしてそこから突然軍が現れるのか。兵士が言う。


「奴らは各屋敷の地下に兵士収容用の大広間を作っていたようです。それが今日一斉蜂起した模様です!!」


 静まり返る一同。街には一般市民も大勢いる。ここでもし仮に戦争にでもなったらレーニの復興はまた遅れる。そこへ別の兵士がやって来て慌てて報告する。


「ダスリン様!! 大変です!!」


「今度は何……?」


 兵士が呼吸を整えてから答える。



「王国復古派《レストア・レーニ》は、レーニ王国の第三王女ユーリシア・サッド・レーニ様を擁立。正統レーニ復興を公言し、進軍しております!!!」


「!!」


 想定外の出来事。もし仮にそれが本当だとしたら、正義は向こうにある。ダスリンらはあくまで仮の政府。王族が現れたのならば、大衆はそれに従うだろう。


「王族は皆死んだのじゃなかったのか?」

「本当に第三王女なのか……?」


 閣僚の間からその報告を疑う声が上がる。



「そんなことどうでもいい!!!」


 混乱する場を一喝するようにクリスナが大声で皆に言う。


「私が迎え撃つ!! この街を二度と壊させない。行くよ!!!」


 クリスナが軍幹部を連れ会議室を退出する。椅子に力なく座ったダスリンは民を守るよう配下に伝えると、俯きながら小さくつぶやく。



「アルド様、申し訳ございません……」


 娘の蛮行。多忙な自分に代わり信頼していた彼女に任せたのは間違いだった。それでも『勇者アルド』が近くにいる。それだけでダスリンは不思議と胸に希望を抱けた。






「全く……、今日からどこで寝りゃいんだよ……」


 それより少し前。レーニの街を追放されたアルドが、街に続く街道上にひとり立ち不満そうにつぶやく。ユーリシアともどんどん離れてしまっている気がする。本当に彼女が居ないと、自分は何もできないただの中年のオッサンになり果ててしまう。



「た、助けてくれーーーっ!!!」


 そんなアルドの耳に男の叫び声が聞こえる。振り返るとひとりの男が血相を変えて駆けて来る。


「どうした?」


「む、向こうに魔物が!! 妻と子が襲われていて!! 街まで通報してくれないか!!」


 街の警備兵に助けを求めるのであろう。ただ自分は今、その街に入れない。アルドが言う。


「分かった。俺を案内しろ」


「へ? あんた、農夫だろ……?」


 アルドが首を振って答える。



「いや、勇者だ」


 自然と出た言葉。アルドはそんな自分が少しだけおかしく思えた。

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