28.新相棒誕生!?
十二年前。ここレーニ王国では魔王軍による歴史上稀に見る破壊と殺戮が行われた。
「終わりだ。この世の終わりだ……」
魔王軍の目的は分からない。ただその日、突如空と地面を埋め尽くした魔王軍がレーニ王国へと総攻撃を仕掛けた。
「ぎゃああ!!」
「うわああああ!!!!」
レーニ王国軍も必死に抗戦した。
だがその軍がほぼ全壊すると、魔族たちは王都レーニをはじめ各地で破壊と殺戮を始める。街や村の自衛団が必死に争ったが、国軍すら敵わなかった魔族相手では時間稼ぎにすらならない。多くの都市が燃え上がる炎と共に、無残に滅んでいった。
「た、助けて……、ぎゃああ!!!」
王都レーニでの殺戮はその中でも群を抜いて凄惨なものとなった。
人の数の多さ、そして高い知能を持った魔族は王族の根絶やしを遂行した。王家の血を残せば再び国は復興する。それを理解していた彼らは王城の攻撃をより一層強めた。
「があああっ……」
「こ、国王っ!!!」
国王が殺され、王子や親族など魔族による徹底的な虐殺が始まる。軍が敗北したレーニ王国は、ただただそれを受けるしかなかった。
「避難よ、国外に避難を!!!」
そんな中、三十代で大きな富を得たマーモルド商会の二代目ダスリンは、悲壮な表情で皆に命じた。レーニ王国の滅亡は避けられない。ただ、レーニの人間が居れば国はまた興せる。幸い多くの資金は国外に分散してある。今は逃げればいい。ダスリンは皆と共に必死に戦場を駆けた。
「ぎゃああああ!!!」
「!!」
ところが後方にいた部下たちから悲鳴が上がる。振り返るダスリン。空には数体の魔族。剣を持って皆を襲っていた。
「……こんなところで」
数体とは言え、魔族に狙われたら普通の人間などあっと言う間に惨殺される。死を覚悟した。どんな状況でも諦めず商売を続けてきたダスリンであったが、さすがにもう無理だと死を覚悟した。
「はあああああああ!!!!」
ドオオオン!!!!
「え?」
そんな彼女の目に信じられない光景が映る。黒髪の少年。美しい剣を片手に、あの恐ろしい魔族たちを次々と屠って行く。
「コレット!! 怪我人の手当てを!!」
「了解です!!」
仲間の青髪丸メガネの少年がそれに応え、怪我をした仲間を治療していく。
「勇者、様……」
泥で汚れた顔。乱れた髪。レーニ王国で名だたる商人の列に加わった上級商人ダスリンの無様な姿。そんな絶望の中、彼女が足を止めてその若き勇者を見つめる。
ドオオオオオン!!!!
遠方では快晴の空に突如起こった雷雲からの雷撃。それは後に『雷帝』と呼ばれるアルドの仲間キュールの参戦。助かる。まだ生きられる!
「う、うわあああ!!!!」
前方で魔物と戦うレーニ国軍から悲鳴が響いた。国軍の鎧を着た青髪のイケメン。敵に怯える仲間をひとり鼓舞している。ダスリンが叫ぶ。
「勇者様、皆を、レーニをお救いください!! 必ず私が復興させて見せますから!!!」
魔族と戦うアルドが背中越しに答える。
「分かった! 頑張れよ!!!」
若きアルドはダスリンたちを襲っていた魔物をすべて倒すと、前方にいる国軍の援護へと向かう。がっくと両膝を地面について涙するダスリン。様々な感情が彼女を包む。
「希望はまだあった。そして今度は私がその希望になる……」
後に彼が本当の勇者だと知ったダスリン。自分よりもずっと若い彼に、初めて『希望』と言う言葉の意味を教えて貰った。
「本当に来て頂けるとは、感激です……」
ダスリンの豪邸に招かれたアルド。暫定政府機能が置かれる重要拠点。物々しい警備の中、彼はダスリンの政務室へと招かれた。質素な絨毯に安物の机。暫定政府軍の軍旗は立派だが、この殺風景な部屋が本当に今のレーニを動かしているとは思えない。ダスリンが木の椅子に座るよう促して言う。
「ごめんなさいね。贅沢はできないので」
恐らくここにあった彼女の私財も売り払ったのだろう。本当に清貧を絵にかいたような女性だ。アルドが椅子に腰かけながら答える。
「構わない。急に押しかけて悪かったな」
初めてダスリンがその疲れ切った顔に笑みを浮かべて言う。
「そんなことないですわ。呼んだのは私の方。アルド様に来て貰えて感謝しかございません」
ダスリンは軽く頭を下げアルドの前に座る。美しく結われた黒髪。歳は取ったが気品ある美しさは昔より増している。テーブルの上に置かれたポットを手にアルドに尋ねる。
「お茶しかございませんが、よろしいでしょうか?」
アルドは戸棚にあるひとつの瓶を指差して言う。
「あれが良いな。貰えるか?」
戸棚に置かれた瓶。それを見たダスリンが苦笑して言う。
「まあ、私の秘蔵のお酒にもう気付かれてしまったのですね。あの時は若かった勇者様もお酒を召されるようになられましたか」
そう言いながら立ち上がり、戸棚に隠すように置かれた酒瓶を手にして言う。
「中々眠れぬ日もありまして、そんな時はどうしてもこのお酒に頼ってしまいます……」
そう言いながらダスリンはグラスを二つ用意。ゆっくりと注ぎ終えると、ひとつをアルドに渡す。
「いい香りだ。悪くない」
「では、久しぶりの再会を祝して」
ふたりが軽くグラスを合わせ、口にする。
「それで? 俺にどんな用事なんだ?」
ダスリンは色々とこれまでのアルドについて尋ねたいのを我慢し、まずこのレーニの現状を説明した。私財を投じ暫定政府を樹立。復興や治安維持に努め、対魔物用の軍隊まで整備した。その努力は並大抵のものではない。
ただそんな彼女を面白くないとする者たちがいる。元レーニ王国の中枢にいた貴族たち。何の努力もせずに『正統性がない』などの言いがかりをつけ『王国復古派』と名乗る反政府組織を作り上げた。
「特に剣聖大臣に就任したベルサール・ダズモンドのカリスマ性を危惧しています。彼はレーニ王国の復興を夢見て我々を敵視しています」
レーニ王国の剣聖大臣。文字通り攻撃を司る大臣で、『剣聖』を名乗ることができる強者だけに与えられる地位。数で勝る暫定政府軍だが、敵にベルサールがいるとほぼ負ける。まさに剣聖である。ダスリンが空になったグラスに再び酒を注ぎ、ため息交じりに言う。
「更に隣国のクレゾン王国がレーニの領土を狙っています。国境付近で小規模な紛争が起き被害も出ています」
「クレゾン王国か……」
少し情報は入っていた。ただこうして詳細を聞くとレーニの置かれている現状の辛さが実感できる。ダスリンが言う。
「クレゾン王国は今、必死になって武器を買い漁っているそうです。我が国の武器庫が襲撃されている報告が幾つも上がっています。恐らく戦争の為かと思います」
(武器庫が襲撃? まさか……)
アルドがその可能性を思い尋ねる。
「俺は今、勇者の剣を探している。手違いで商会に渡ってしまったのだが、セシル公国で同じように武器庫が襲撃され奪われてしまった。それはまさか……」
「多分クレゾン王国の仕業でしょう。本当に得体の知れない国です……」
「そうか。その情報は助かる」
勇者の剣を求めこのレーニ自治区へ来たが、今の話から考えるに隣国のクレゾン王国に行く必要がありそうだ。アルドが尋ねる。
「王国復古派の拠点は分かるか? 実は多分俺の仲間がそこに……」
アルドは確信していた。ユーリシアを攫ったのは王国復古派の仕業。だから力づくでも取り返すつもりだった。ダスリンが目に涙を溜め言う。
「アルド様自ら和平交渉を行ってくれるのですね!!!」
「え?」
グラスを持っていたアルドの手を握り、ダスリンが涙声で言う。
「あの勇者アルド様が自ら交渉して頂ければ、彼らともきっと上手くやっていけるはずです。今はレーニの民が手を取り、他国や魔物からの侵攻に備えなければなりません。有難いことです……」
「いや、俺は……」
何か話すタイミングを失ってしまったアルド。話し合いとか交渉事などは『超』がつくほど苦手。ダスリンが言う。
「お礼は何でも致します。何か欲しい物などはございますでしょうか?」
「欲しい物?」
そう聞かれたアルドは反射的に戸棚にある酒瓶を指差して言う。
「欲しい物と言えば……、あれだ」
「え?」
驚くダスリン。戸棚に並べられた酒瓶を見て、改めて涙を流し言う。
「それは……、それはもう私に夜お酒を飲まなくてもいい世界を作ってくださると言う意味ですね? ああ、なんと心強いお言葉。やはりアルド様は真の勇者様です……」
「いや、俺はただ本当に酒が……」
ダスリンが立ち上がって言う。
「分かりましたわ! アルド様の支援は全力で致します。クリスナ、いるんですよね??」
その声の後、ゆっくりとドアが開かれ銀髪のおさげの少女が現れる。
「何で分かったの……?」
そう尋ねる娘のクリスナにダスリンが言う。
「当然でしょ? あなたの母親よ。それよりクリスナ……」
アルド、そしてクリスナの視線がダスリンに向けられる。
「アルド様の案内役をあなたに命じるわ。レーニのこと、教えて差し上げなさい」
「ええ!? 何それ!?」
驚くクリスナ。それ以上にアルドはまた面倒事が増えたとため息交じりに首を振った。




