↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、勇者様。以前、あなたに救われた者達が悪さを始めました。どうかまたお助け下さい。  作者: サイトウ純蒼
第四章「自惚れ剣聖大臣ベルサール」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/38

26.拉致された!?

「アルド・シュナイデルさんですね? 大大臣より伺っております。さ、どうぞお通りください」


「うむ……」


 セシル公国とレーニ自治区の国境にやって来たふたり。先のそれとは違い、今回は往来手形《ボーダーパス》すら見せずに通過を許可された。出入国審査を受ける人の列の横、少し腹の出た無精ひげのオッサンと、金色の髪に青い瞳の少女が通り行く。


「コレットさんって、やっぱりすごいんですね!」


「そうだな」


 小声でそうつぶやくユーリシアにアルドが歩きながら答える。大大臣の名は伊達じゃない。

 間もなくレーニ自治区への入国。出口に差し掛かったふたりに職員が声を掛ける。



「お気をつけて。自治区はまだ内戦が続いておりますので」


「ああ、ありがとう」


 それに手を挙げて答えるアルド。ユーリシアも会釈してそれに応え、駆け足でアルドの傍へ行く。


「ねえ、アル君。レーニ自治区ってやっぱり戦争中なの??」


 アルドはぽかんと口を開けてユーリシアを見つめる職員をちらりと見てから、その問いに答える。


「コレットから内戦中だと聞いている。そもそもここは昔、『レーニ王国』って言う国があったんだ」


「レーニ王国?」


「そうだ。だが、十二年前の魔王軍侵攻により国は滅んだ。俺が知っているのはそこまでなんだが、今はダスリンと言う女豪商が私財を投げ打って『レーニ自治区』と言う暫定政府を作っているらしい」


「へえ……、そうなんだ。あ、ダスリンさんって……」


 ユーリシアが鞄の中から手紙の束を取り出し、その中のひとつをアルドに手渡して言う。


「レーニ地区のダスリン・マーモルドさんでしょ? アル君宛に手紙が来てるよ! 内戦が続いていて、助けに来て欲しいって」


「そうか……」


 アルドの脳裏にレーニ王国崩壊後の凄惨な風景が蘇る。ユーリシアが尋ねる。



「でも内戦ってどう言うことなの? ダスリンさんは暫定政府を作って復興に頑張っているんでしょ? 誰と戦っているの? 魔物??」


 ユーリシアが首を傾げる。国境付近は平和そのもの。この国でそんな内戦が起こっているとは到底思えない。アルドが答える。


「コレットから聞いた話では、レーニ王国の中枢にいた奴らが王国復古を企てていて、暫定政府を目の敵にしているってことだ」


「ふーん、なるほど。亡国後に国を立て直そうとするダスリンさんと、元レーニ王国の中枢の人たちとの争いってことね」


「まあ、簡単に言えばそうだな」


 歩きながらずっと前を向いて話すアルド。ユーリシアは少しだけこの空気に違和感を覚えていた。

 アルドが立ち止まり、振り返ってユーリシアに言う。


「ユーリ、お前に伝えておかなきゃならないことがある」


 これまでにない真面目な態度。一瞬愛の告白かと思ったユーリシアだがどうも違うようだ。アルドが言う。



「お前を保護したのはここだ。ユーリ、お前はレーニ王国の人間だ」


 今までずっと秘密にされていた自分の出自。ユーリシアは驚きと共に、どうしても今まで黙っていたのだろうとふと疑問に思った。






「それで、どこまでユーリちゃんに話すつもり?」


 セシル公国。マルダン商会の件がひと段落したアルドは「レーニ自治区」に旅立つ前、コレットに呼ばれ時間を作り会いに来ていた。王城内の静かな中庭。紅茶を口にしながらそう尋ねるコレットにアルドが答える。


「酒はねえのかよ?」


「ないです。アルドさん、ちゃんと答えてください」


 真面目な口調のコレット。アルドは頭を掻きながら答える。


「レーニで拾ったってことは言うつもりだ」


「そうですか。先ほども話しましたが、今レーニは暫定政府派と旧王国派による争いが続いています。どちらが良い悪いかと言うのは彼らが決めることですが、僕としてはそこにユーリちゃんを連れて行くことにやっぱり不安を覚えます」


「……分かってる」


 それでも行かなければならない。ヴァルファード王国に行くための鍵『勇者の剣』がそこに渡ったと言うならば。


「アルドさんでなければ無理やりにでもユーリちゃんを引き止めました。これが僕の素直な気持ちです」


「随分、ユーリに味方するんだな」


 紅茶を飲もうとしてカップに手を掛けたアルド。すぐに放して苦笑する。


「そうですよ。彼女が居ればアルドさんが死(・)を(・)選(・)ぶ(・)こともないと思いますので」


 すまし顔のコレット。アルドが両手を後頭部に組んで言う。


「死なねえよ。何とかする」



「あの時、で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)から心配しているんです」


 静寂。そう言い放ったコレットの顔の緊張の色が浮かぶ。すぐに笑顔になって言う。


「ごめんなさい。変な意味じゃなくて、本当にみんなを心配して……」


「ああ、分かってる。ただ、まだそうと決まった訳じゃなねえ。とりあえずアリスが助けを求めている。だから俺は行く。それだけだ」


 紅茶を一気飲みしたアルドが立ち上がって言う。



「じゃあな、もう行くぜ」


「はい、今日はありがとうございました」


 そう頭を下げるコレットにアルドが尋ねる。


「ひとつだけ聞きたいんだが、ユーリに回復魔法の才能って有りそうか?」


 コレットが笑って答える。


「あると思います。かなりの才能が。ただ、自在に操れるようになるかどうかはまた別問題です」


「何割ぐらいの可能性だ?」


 人差し指を顎に当て、少し考えたコレットが答える。


「多く見積もって、一割」


「そうか。ありがと」


 アルドはそう言うと片手を上げてその場を立ち去った。






「アル君、今日はあそこの村で休もうよ!!」


 国境を越え半日以上歩いたふたり。ようやく見えてきた初めての村を見てユーリシアが喜びの声を上げる。内戦が続いていると言うレーニ自治区。今のところそんな気配はさほど感じない。


「そうだな。レーニの街まではまだ遠いし、今日はもう休むか」


「だよね~!!」


 ユーリシアが飛び跳ねるように喜びながら村へと向かう。

 中規模の村。ただし、そこはやはり内戦中の国。入り口に差し掛かったふたりに門番の男が声を掛ける。



「どこから来た? この村に何の用だ?」


 槍を構えた門番二人。夕暮れにやって来たアルドたちを警戒する。


「リーディア王国の者だ。旅をしている」


 アルドはそう答えるとリーディア発行の往来手形《ボーダーパス》を見せる。それを見た門番が頷いて言う。


「確かにそのようだ。すまなかったな。俺たちは王国復古派《レストア・レーニ》の奴らを警戒しているだけだ。さ、入ってくれ」


「ああ、ありがとう」


 無事に村に入ることができたふたり。ユーリシアが小声で尋ねる。


「アル君、王国復古派《レストア・レーニ》って何?」


「レーニの中枢にいた奴らのことっぽいな。暫定政府に反発しているってあれだ」


「ふーん」


 崩壊した国。自分の国。ユーリシアは様々な気持ちを胸に村の街道を歩く。




「そこのお兄さん!! 運がいいよ、ちょうど新しい酒が入荷してね!!」


 街道に軒を連ねるお店。その中の飲み屋の客引きがアルドに近付き陽気に声を掛ける。


「何っ!? 新酒だと!!」


「そうだよ! レーニの地酒、今が最高の時期だよ!!」


 大きく頷いたアルドが、一軒の宿屋を指差しユーリシアに言う。



「ユーリ、あそこの宿に泊まろう。お前は先に言って手続きをしておいてくれ。後で行く」


「あ、アル君……」


 不安そうな表情をするユーリシア。アルドは客引きと共に飲み屋の中へと消えていく。



「もう、本当に仕方ないんだから!!」


 幸い路銀はある。マルダンから得た報酬。ユーリシアはひとりアルドに指示された宿屋へと向かう。



(!!)


 だがその宿屋に入ろうとした彼女に、突然複数の男たちが現れ取り囲んだ。驚き、怖がるユーリシア。男のひとりが小声で言う。


「黙って付いて来てくれませんか」


 体が震え、大声を出そうとしたユーリシアの口元を一瞬で男が布で塞ぐ。仲間で人の壁を作り、薬を嗅がされて眠ったユーリシアを拘束。暗くなり始めた路地の奥へと消えていった。



「ぷは~、うめぇ~」


 ひとりレーニの銘酒を楽しむアルド。彼がユーリシアと再会できるのはしばらく先のこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。