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拝啓、勇者様。以前、あなたに救われた者達が悪さを始めました。どうかまたお助け下さい。  作者: サイトウ純蒼
第三章「強欲商会マルダン」

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13.不審者と間違えられる!?

『世界の孤島』と呼ばれるヴァルファード王国。四方をドーム状の結界に囲まれ、如何なる者の入国も拒む隔離された地。元勇者アルド・シュナイデルが目指す地であり、十二年前の忘(・)れ(・)物(・)がある場所。

 そんなヴァルファード王国ではさらに魔物の襲撃が苛烈になっていた。



「現状を報告せよ」


 ヴァルファード王城に設けられた特別会議室。真っ赤な絨毯に装飾美しいカーテン。職人が丹精込めて作り上げた書棚には国法や軍法などの書物が並ぶ。ここは国の重要法案や、国家としての方針を決める最も重要且つ威厳ある場所。

 その部屋に顔を揃えたのは国王に王族、各大臣や軍務団長、そして三賢者。これより今後の対策が決められようとしていた。国王の言葉に軍務団長が答える。


「はっ。グレラダス地方にマーセッツ地方が陥落。勇者ティングの活躍もありましたが、無念ながら多くの死傷者を出し軍は敗走。民はこの王都へ避難を始めています」


 既に多くの者が知る惨状。ヴァルファードの勇者の活躍は嬉しいものの、そのほとんどが耳を覆いたくなるような凶報である。長髭の国王が暗い顔で言う。


「王都を最優先で守るのだ。ここを落とされたら国の崩壊となる」


 ヴァルファード最後の生命線。国王の命に皆が頷く。そこへテーブルの端に座っていた青髪の女性が発言する。



「それでランドルフさんを襲った奴は見つかったのかしら?」


 バーク・ランドルフ。三賢者のひとりで最年長。眼鏡をかけた優しい男でまとめ役だったが、先日何者かの襲撃を受け死亡。犯人はまだ捕まっていない。


「残念ながらまだで……」


 警備隊長が申し訳なさそうに答える。まるで分からない。目撃者なし。深夜の襲撃。他にも不可解な死体が発見されるなど、国内が混乱する状況ではまともな捜査もできなかった。青髪の女性が言う。


「まだ結界が国を守ってくれているからいいけど、私たち三賢者がこれ以上欠けたらそれも分からないわ。それこそ絶望よ」


 ヴァルファード王国を守る結界。その維持に必要な三賢者。そのうちの一人が消された。皆の心配は当然そこへと向けられる。


「ラジェス、心配要らないわ。あなたとチャノは必ず私達が守るから」


 王族席に座った赤髪の第一王女アリスが言う。その目は火炎のように燃え、強い意志を感じる。三賢者のひとりラジェスが小さく頷きながら答える。


「ありがとうございます、アリス様」


 残された三賢者はふたり。国家の意地で守らなければならない。



「よろしいでしょうか」


 肥厚した腹に薄毛の頭。内務大臣であるギザリフ・カスケードが手を上げて発言を求める。頷いた国王の後にギザリフが言う。



「私にひとつ妙案がございます。驚かれるかもしれませんが、魔族と交渉してみると言うのはいかがでしょうか」


 誰もが驚く突拍子もない案。皆の視線を集めるギザリフ。誰も知らぬところで静かに王国の崩壊は始まっていた。





「うおおおおおおおおおお!!!」


 ザァアアアン!!!


 同じヴァルファード王国内。王都に迫った魔物相手に、その青髪の若者はたったひとり奮闘していた。


「グルルルル……」


 周りを囲む多くの魔物たち。若者が剣を向け言う。


「このティング・バレスティンがいる限り、お前らの自由にはさせない!!」


 ティングの剣を持つ手に力が入る。



(アルドさん。あなたに教わった勇者の心得、このティング最後まで全うして見せます!!)


『世界の孤島』でたったひとり戦う若き勇者。無援の状態でもその青き光は美しく輝いていた。






「アル君~、ついにやって来たね。国境」


 アルドとユーリシアはリーディア王国とセシル公国との国境に架かる橋へと辿り着いた。両国を流れる大河。その川を挟み向かい合うように国境事務所が建つ。昨日は閉じていた鉄製の門。今朝から開かれ、すでに多くの人が出入国審査を受けるために列をなしている。


「ああ、久しぶりだな」


 勇者パーティ時代には世界を飛び回ったアルド。もちろん多くの国境を越え魔物と戦った。列に並びながらきょろきょろ前を見るユーリシアが尋ねる。


「ねえ、アル君。そう言えば往来手形《ボーダーパス》って持ってるの?」


 往来手形《ボーダーパス》。それは国と国とを行き来するために各国が発行する通行許可証。それを持つことで自由な行き来が可能となる。アルドが不敵な笑みを浮かべそれに小声で答える。


「俺を誰だと思ってる? 元勇者様だぜ」


 そう言って懐から取り出したのは、年季の入った金色でカード形状の木片。塗装も剥げてきており、傷んだ表面に何か文字か書かれている。


「何それ?」


「ふっ、これこそ特別な往来手形《ボーダーパス》、ゴールドパスだ。これがあればどんな国でも自由に行き来できる!」


 ドヤ顔でそう言うアルドにユーリシアも目を輝かせて答える。


「さすが、アル君! 頼りになる!!」


「ふっ、ただのオッサンじゃないだろ?」


 色々あったが過去の自分を褒めてやりたい。この時はそう思った。




「何だこれ? 模造品か?」


 だがその優越感があっと言う間に砕け散る。順が回って来た入国審査。自信満々で提示したゴールドパスを見た若い係員が首を傾げて言う。


「ちゃんとした往来手形《ボーダーパス》を出せ。なければ通行は認めん」


「え……、おい、ちゃんと見ろ! これはゴールドパスと言ってだな……」


 これを見せることで元勇者だと知られる恐れもあったが、それでも背に腹は代えられず提示した秘蔵の品。これが認められなければ王都まで戻り往来手形《ボーダーパス》の発行を行わなければならない。


「こんな物、見たことない。不審者か? さあ、もう引き返せ」


「ま、待て。ここに書いてあるだろ? 往来手形って……」


 木片に記載された文字を指差し懇願するアルド。心配そうな表情のユーリシア。まさかこんな場所で足止めを食うことになるとは。


「どうした?」


 事務室から別の上官らしき男がやって来て言う。若い男が答える。


「こんなものを見せられまして……、ご存じでしょうか?」


 上官がアルドのゴールドパスを見つめる。期待するふたり。だが上官は表情を変えずに言う。



「……知らんな。まあちょっと調べてみる」



「マジかよ……」


 時代が流れたとは言えあれほど無敵だったゴールドパス。もう認知すらされていないのか。ユーリシアが小声で言う。


「ア、アル君って貴族なんでしょ? それ言ったら通してくれるんじゃない??」


「いや、無理だ。あんなの公爵以上じゃないと知らない……」


 確かにアルドはリーディア王国では特別貴族。ただそれは公爵以上の地位の者しか周知されていないし、そもそも本人ですら忘れていた。




「おい……」


 しばらくして戻ってきた上官。すかさずアルドが言う。


「コレット! コレットに言ってくれ!!」


 上官はそのセシル公国の大(・)大(・)臣(・)の名前を聞き、思わず眉をひそめる。アルドの言葉を無視するかのように事務的に言う。


「よく分からないらしいが昔の往来手形《ボーダーパス》のようだ。怪しいが、まあ通行を認める」


「よ、良かった……」


 ユーリシアが安堵の表情を浮かべる。アルドはゴールドパスを受け取り頭を掻きながら国境の橋を歩く。



(前途多難だぜ……)


 無事入国が認められたセシル公国。十数年ぶりにその地を踏みしめる。





 数日後。リーディア王国との国境での出来事が、セシル公国の大大臣を務めるコレット・サーマルの耳へともたらされる。


「え? 金色の往来手形《ボーダーパス》だって!?」


 報告を聞いたコレットが驚き聞き返す。


「は、はい。黒髪と若い女性を連れた二人組との報告が……」



(アルドさんだ……)


 青髪に丸メガネ。その奥の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。コレットが言う。


「すぐにその二人を追って。どこにいるか所在を掴んで欲しい」


「はっ! かしこまりました」


 報告に来た兵士が敬礼し退出する。



(アルドさん、やっと見つけましたよ……)


 勇者パーティの一員として名を馳せ、『大僧侶』の二つ名を持つコレット。ただその大恩人であるアルドは旅の終わりと共に姿を消した。

 ようやく会える。彼の目に、涙と共に有りし頃の冒険の日々が浮かび上がった。

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