寛治、言葉を探して。
呆気ない幕の引き方をしましたけれど、
だいちゃんのおっ父は、消滅しました。
でも、魔法ってそういう側面ももっていますよね?
派手にバトルするだけが戦いじゃないですよね?
寛治はこの状況で何を思うのか。
では、どうぞ。
でも、おらが気の済むまで泣く時間はないようだった。
泣いているおらに、
「カンジ」
とりっちゃんが声をかけてきた。
みっともない泣きべそ顔を、おらは向けた。
一応我慢はしたようだけど、りっちゃんは吹き出した。
「ごめんなさい。面白い顔だから」
「失礼だ」
とおらも笑った。
でも、これでいいんだ。
おらは立ち上がった。
そうすることで初めて気がついた。
助けられてから約一年。
その間に、おらとりっちゃんの身長に差ができていたのだ。
同じぐらいだったのに、今はおらがやや見下ろす形になっていた。
怖いと思った。
「なに?」
「うんにゃあ」
「まあ、今生の別れってわけではないと思われるわけだから」
「んだなや」
「次に逢ったときに、あたしのこと忘れてたら、承知しないから」
「ずっと覚えてる。約束だ」
約束、と口にして、おらはまだ鈴との約束を果たしていないことを思い出した。
今の今まで忘れていたおらは、でも聞かなくても答えは察しがついた。
助ける前に死んでしまった、助けなくてはならないと判断される前に結果が出てしまっていた。
そんなところだ。
そしてそれは間違いではないという確信があった。
だから聞かないでおこうかとも思ったのだけど、約束は約束だ。
「なに?」
「うんにゃあ。でも次に逢えるのが五十年後だったら、おらボケちまって覚えてねえかもしれねえだよ」
「うん。でも、あたしは覚えてるわ。おじいちゃんになったカンジを、あたしは探して見つける。それに、目の前でしろへび様に変化したら、ショックでボケも治るかもしれないじゃない」
「そりゃいいな」
おらもりっちゃんも族長さんも、笑顔になった。
薄暗かった辺り一帯に、光が差してきた。
りっちゃんの魔法によって眠らされていた大人たちが、目を覚ますのだろう、ううんとうなった。
りっちゃんと族長さんは目を合わせてから肯いた。
大人たちが完全に目を覚ます前に、族長さんはしろへび様に変化した。
ほどなくしていくつもの悲鳴が、そして、お助けを、と口々に叫ぶ声が聞こえた。
おらとりっちゃんはしろへび様の陰に隠れる格好になった。
前に御神木、後ろにはしろへび様、その向こうに大人たち。
世界にはおらとりっちゃんのふたりだけ。
「……あのなあ、りっちゃん。こんなこと、こんなときに訊くことじゃないのかもしれないけど、いいげ?」
「いいわよ。何?」
「だいちゃんが、ああなったとき、なしておらみたいに助けてくれなかったか訊くって約束して、まだ果たせてないまま、今になっちゃっただ」
「友達だったもんねえ。妹でしょ?」
「うん」
「助ける必要があるって気がつく前にああなったんだけど、納得いかないわよね。妹さんとしては。悪いとは思うわ。あたしだって悲しい。でも、ごめん。助けられなかった」
「いや、謝らなくてもいいだよ。おら、なんか、ごめん」
こんなときに気の利いたことを言えればまだよかったのだろうけど、おらは言葉に詰まってしまった。
いつだっておらは冴えない。
言葉を探しているおらのそばに、りっちゃんは近づいた。
そして、たった一瞬だけ、唇と唇を重ね合わせた。
唇と、唇を、重ね合わせたのだ。
この世で一番素敵な出来事だ。
「じゃあ、またね」
「おら、豊穣祭りで久澄丸を演じるだ」
「知ってる」
「りっちゃんが大好きだ」
「知ってる」
「でもきっと、いつか、別の女性を好きになって、別の女性と結婚するだ」
「知ってる」
「これ、もらってくれるか?」
「何?」
「髪飾りだ」
「……それは受け取れないわ。カンジ、その髪飾りをあたしだと思って、大事にして。そしてこの人こそ生涯の伴侶だって思える人ができたなら、そのとき、それを贈って」
「うん」
「あたしは楽しかったわ。カンジはどう?」
「おらも楽しかっただ。ありがとう」
「うん」
そう言うと、りっちゃんは御神木の中に消えていった。
エルフの姿に戻った族長さんも続いた。
りっちゃんは、さようならとは、言わなかっただ。
こうして、寛治は一歩、また一歩と
大人に近づいていきます。
次回で最終回です。寛治の物語に、
一応のピリオドが打たれるのです。
楽しみにしていただけたら、
そして、少しでも寂しく思っていただけたら嬉しいです。
では、また。




