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久澄村エルフ奇譚   作者: 小町 翔平
37/39

寛治、ごくりと唾を飲んで。

今回を含めて、あと三回でおしまいです。

振り返ると、長かったと思うんですけど、

みなさんはどうですか?


では、どうぞ。

 リーファは我々の中で唯一、痛ましい過去を知らずに生まれた子。思えば運命なのかもしれぬのう。

 悪いのはあの侍で、人間すべてではない、と言った最初のエルフが、リーファの両親だったのだ。

 忌々しく思う者たちは頑なに拒んだが、豊穣祭りは娯楽のひとつとして我々に定着していたため、隠れるようにして観ていた。御神木を通して、な。その中には、まだ生まれたばかりのリーファもいた。リーファは、笑ったのだ。まだ満足に話すこともできぬうちから。二千年の時を生きる我々は、徐々に感情というものが死んでいってしまうのだ。その強く感情を露わにすることが百年に一度ほどもないと言われる我々が、微弱にしか感情を現せなくなった我々が、声を上げて笑ったのだ、笑うリーファにつられて。笑ってから、笑っている仲間を見て、笑っている自分に気がついて、驚いたのだ。あれは久しく忘れていた何かだったよ。

 断絶した交流を再開させるか否か、その話し合いは幾年かに一度、行われた。反対派と賛成派、ともに譲らずに、結論はいつも先送りだった。だから、話し合い自体が無意味に思われるようになり、それぞれが胸に痛みや信念を持ちながら、月日は流れた。十年、五十年、百年、とのう。

 そうして、赤子だったリーファも、もう少しで三百歳だ。まったく、本当にエルフなのか。それとも私が忘れてしまっているだけで、みな生まれたばかりの頃はそうなのか。リーファの豊かな感情は、波のない海のようだった我々の心に、喜び、慈しみ、愛、そういった善なるものを投げかけてきた。雪が解けるように少しずつみなが変わっていった。 

 ただ物には順序というものがあるだろう? それをいくつか飛ばしてしまったのだ、この子は。そう、人の子、リーファがそなたを助けたのは、本来なら族長である私の許可を取ってからでなければ、絶対にしてはならぬことだったのだよ。本に困った娘だ。我々の世界でも宝とされる、貴重な「エルフの雫」を勝手に持ち出して、エルフにではなく、よりにもよって人間に使ったのだから。人間を嫌う者たちの怒り様と言ったら。

 だが、だ。人の子よ。知らずにいるのだろうから教えよう。そなたは死んでいたのだ、リーファが助けなければ。

 禁を冒してまで命を救った優しさを称えるか。無断で、しかも宝を、人間に使うという暴挙に見合った罰を与えるか。意見は分かれた。

 それはさておいて。人の子よ、妹の病を治せたのを、単なる偶然と思うてはならぬ。それは「エルフの雫」の力の一端なのだ。しかしその力は人間には過ぎたるもの。大事に至らなくてよかった。我々にとっても、そなたにとっても。今、見るところによると、その力は消えようとしている。人間には手に余るもの。それでよいのだ。

 リーファが助けたのがそなたでよかった。あるいはそなただからこそリーファが助けるという導きがあったのかもしれぬのう。我々と人間とが、新しい交流を持つことをよしとすることを我々の総意とするという話は、リーファから聞いたであろう。これから、これからというときだったのに……。

 二千年を生きたこの樹は、御神木は、五度や六度、斧を入れたからといって朽ちるほど弱くはない。しかし、二千年を生きたこの御神木に斧を入れるという行為は、この樹が持つ神通力を乱れさせるには十分だった。十分であってしまったのだ。

 済まぬ、人の子よ。ふたつの世界を、千三百年に亘ってつないできたこの御神木は、その扉を閉ざそうとしているのだ。私にも、誰にもとめられぬ。わかるか?」


 おらはごくりと唾を飲んだ。


「扉を閉ざすってことは、もうりっちゃんとは逢えなくなるって、つまりはそういうことだか? ですか?」

「永久に、となるかどうかは、時が過ぎてみなければわからぬことではあるが、永久にではないとは、誰にも言えないのだ。永久かもしれぬし、一年かもしれぬ。それは誰にもわからぬのだ、人の子よ」

「それなら、「エルフノシズク」の力はまだおらの中に残ってるんですよね。それで御神木の傷を治せば、なんとかなりませんか?」


 族長さんは微笑んだ。


「やるだけやってみよう。その価値はある」


 おらは奮い立った。

 族長さんは道を開けた。

 ひざまずいていたりっちゃんは跳ねて、おらの肩に手を置いた。

 とびっきりすてきな笑顔で。


 近くで見ると斧でできた傷跡は痛々しいものだった。

 そっと当てた手は、がくがくと震えていた。

 心から、治ってくれと、扉が閉じることのないようにと、願った。

 

 傷跡に、変化はなかった。

 族長さんと目が合うと、にっこりと肯いて返された。

 わかっていただな。


 おらは自分の無力さを、これほど悔しく思ったことはなかった。

 気がついたら、泣いていた。

 おらの泣き虫は、おらたちの間では有名だけれども、この涙は、今まで流してきたどの涙とも、意味合いが違った。


二千年を生きたエルフは感情が希薄になる、

という意味のことを書きました。

でもやっぱり、族長になるようなエルフは、

きっとそうじゃないんじゃないかという思いで

キャラを作りました。感情を出しました。

それを是と判断されるか、非と判断されるかは

意見の分かれるところだと思います。

あなたはどう思いましたか?

 

では、また。

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