寛治、大事なことを教わって。
もうそろそろ最終回へのカウントダウンが始まります。
楽しみにしてくださっているあなた。大好きです。
では、どうぞ。
家に着いたのは薄暗くなってからだった。
おっ父が一目見て訊いてきた。
「誰にやられたんだ」
「言えねえ。言ったらもっとやられる」
おっ父は察した。
おっ母や兄弟らがいる前では可哀そうだと思ったのだろう、場所を移した。
おっ父が先に立って歩いていた。
だからどんな顔かはわからなかったのだけど、振り向いたおっ父は険しい表情をしていた。
「いいか、寛治。男には負けてはなんねえ喧嘩ってのがあるんだ」
「そっだなこと言ったって、相手は三人だ。一対一だって勝てっこねえのに、どうしたらいいだ? それに、そもそも悪いのはおらじゃねえ。自分の思い通りにならないからって癇癪起こして暴力振るう三津男君たちが悪いんだ。何でおらが悪いみたいに言われなきゃなんねえだ?」
おっ父が黙っているので、おらはさらに続けた。
「世の中には、常識の通じねえ相手ってのがいるだ。みんながみんな、常識をわきまえるだけの知性があれば、そりゃあ何でも話し合いで解決すんべ。でも世の中はそうじゃねえだ。我慢するだけでは駄目だ、言いたいことはちゃんと言え、なんていうやつもいるけど、そいつは馬鹿だ。言いたいこと言っても、それが正しくて自分が間違ってるってわからないやつらが弱い者いじめをするんだ。もっと言えば、自分が間違ってるってわかったうえで暴力を振るうんだ。相手が自分より弱いからって、善悪正誤を無視して自分の気に入る非常識を押し通す、そんなやつに、どうやって立ち向かえって言うだ? 常識の通じねえ相手に、喧嘩でも勝てっこねえ相手に、どうしろって言うだ。悪いのは自分より強い人間にはへこへこ機嫌とるくせに、自分より弱い人間にはかさに着て威張り散らす、そんなやつらでねえか。おらはなんにも、殴られなきゃなんねえことなんてなんにもしてねえのに、その上さらに、おらが悪いみたいに説教されねっきゃなんねえのか?」
「いいか、寛治」
とおっ父は一回区切った。
おらの言い分を聞いても、表情は変わらなかった。
「喧嘩ってのは必ずしも正義が勝つわけじゃねえ。それに、おっかねえよな、正直。でも世の中、生きてりゃあ、理不尽なことなんて山ほどある。寛治はこれからの人生、相手が自分より強いからって、腕力でも権力でも勝てっこねえからって、尻尾巻いて逃げんのか? 勝てっこなくても、立ち向かわなきゃいけねえことが、これからの人生で待ってんだ。今の問題は、泥水飲むつもりで我慢して、堪えなきゃなんねえことか?」
「んでもおっ父、おら喧嘩なんてできねえだ。怖いんだ。睨まれると体が震えるし、殴られると痛くて涙が出るだ。そういう人間もいるだ。みんながみんな、殴り合いができるわけではねえ。みんながみんな、博士みたいな論文を書けるわけではねえように。それを情けねえなんて切り捨てるほうが間違いだ。んだべ?」
「うん、そりゃそうだ。寛治の言っていることは正しい」
おっ父は大きく肯いた。
「ほしたらなんで、おらに説教するだ?」
おらは呆気にとられた。
「いいか、寛治。三津男君たちが悪い、それはみんなそう思う。でもな、寛治、今は寛治ひとりだから、まだいい。でもな、もしも、寛治の後ろに誰かいるとしたら、どうだ?」
「後ろ?」
「んだ。家族とか友達とか、好きな女の子がいたとして、それでも寛治は逃げるのか?」
「……逃げたくはねえ」
「んだべ。守りてえべ。だから、怖いって思う自分に勝たなくちゃ、いけねえんだ。おっ父が喧嘩の仕方、教えてやっから、頑張れ、寛治。怖くなったら、自分の大切な人を守るんだって、自分を応援してやるんだ。なんぼ三津男君が喧嘩強いっていっても、おっ父よりは弱わいべ」
「おら、頑張りたい。大切な人を守りたい。喧嘩の仕方、教えてくんろ」
おらはこのときほど、強くなりたいと思ったことはなかっただ。
寛治は頑張ります。
頑張ってる人って、格好いいですよね。
私はヘタレなので、頑張りたいです。
次回を楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、また。




