表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第三部 ホスピス編
95/108

第95話 【現場の理屈】


翌日。


高梨は休憩時間を使って資料を読んでいた。


厚い資料だった。


訪問看護制度。


算定要件。


報酬基準。


読み慣れているはずの内容。


それなのに。


知らないことが多かった。


「こんなルールあったんだ」


思わず呟く。


同じ利用者への訪問間隔。


訪問時間。


加算要件。


複数名訪問。


細かく決められている。


その時だった。


「何読んでるの?」


西田だった。


「制度です」


「勉強熱心だな」


西田は笑う。


高梨は資料を閉じた。


そして聞く。


「西田さん」


「うん」


「利用者さんの部屋に行く時間って、記録以外にもありますよね」


「あるね」


即答だった。


「コール対応」


「うん」


「家族対応」


「ある」


「雑談」


「めちゃくちゃある」


西田は笑った。


「それが仕事だし」


高梨は頷く。


それも事実だった。


訪問記録だけでは現場は見えない。


むしろ見えない部分の方が多い。


「だからさ」


西田が続ける。


「記録だけ見ても分からないんだよ」


高梨は黙る。


「実際にはもっと関わってる」


「……」


「利用者さんのために」


高梨は反論できなかった。


それも事実だからだ。


午後。


ナースステーション。


看護主任も同じことを言った。


「現場は生き物だから」


「……」


「制度通りに動いてない部分もある」


「……」


「でも利用者さん見てるでしょ?」


主任は穏やかだった。


「私たち頑張ってるじゃない」


高梨は何も言えない。


頑張っている。


本当に。


利用者も家族も大切にしている。


だから苦しい。


夜。


ホテル。


榊は高梨から送られてきた資料を読んでいた。


複数名訪問実績。


訪問時間。


看護師配置。


そして高梨自身が書いたメモ。


そこには意外な言葉があった。


『私も分からなくなっている』


榊は読み進める。


『現場は本当に利用者のために動いている』


『家族も感謝している』


『実際には記録以上の時間を使っている』


『だから問題ないのかもしれない』


その次の行。


『でも違う気がする』


榊はそこで手を止めた。


高梨はまだ結論を出していない。


告発を決意したわけでもない。


ただ。


現場の理屈と制度の理屈。


その間で揺れている。


そして榊は気付く。


だからこそ高梨は危険なのだ。


自分の正しさを信じている人間ではない。


悩み続ける人間だ。


悩み続ける人間は、


ある日突然、


覚悟を決める。


榊はパソコンを閉じた。


そして初めて、


依頼の難しさを実感していた。


高梨を止めるのは、


想像以上に難しいかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ