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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第三部 ホスピス編
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第92話 【応援】


九月。


施設では新規入居が続いていた。


空室はほとんどない。


本社も満足している。


利用者も増えている。


売上も伸びている。


現場は忙しくなっていた。


とはいえ。


以前、西田が勤めていた施設のような混乱はない。


職員数は十分。


看護師もいる。


介護士もいる。


だから利用者へのケアは維持されていた。


その日の午後。


ナースステーション。


看護主任が声を上げる。


「高梨さん」


「はい」


「ちょっと応援お願い」


高梨は顔を上げる。


「応援ですか?」


「三階」


高梨は立ち上がる。


何か急変かと思った。


だが。


部屋へ行くと、


利用者は穏やかに眠っていた。


呼吸も安定。


血圧も問題ない。


状態に変化はない。


部屋には看護師が一人いた。


「どうしました?」


高梨が聞く。


看護師は少し困った顔をする。


「いや」


「?」


「ちょっとだけ入ってもらえます?」


高梨は眉をひそめた。


数分後。


二人は部屋を出る。


何もしていない。


状態確認。


軽い会話。


それだけだった。


廊下へ出た瞬間。


高梨の胸に嫌な感覚が走る。


「今の」


看護師が視線を逸らす。


「うん」


「記録どうするんですか」


看護師は小さく答えた。


「複数名訪問」


高梨は黙る。


「でも」


「高梨さん」


看護師が遮った。


そして苦笑する。


「別に嘘じゃないよ」


確かに。


嘘ではない。


高梨は部屋へ入った。


数分間だが。


同じ空間にいた。


記録上も成立する。


おそらく。


ルール上も。


おそらく。


だが。


それは本当に必要だったのか。


その答えだけが見つからない。


夜。


宮本がモップを掛けていた。


高梨は自販機の前で缶コーヒーを握っている。


「顔怖いですよ」


宮本が言う。


高梨は苦笑した。


「そうですか」


「そうです」


宮本はモップを立て掛ける。


「何かありました?」


高梨は少し迷った。


そして聞く。


「宮本さん」


「はい」


「法律違反じゃなかったら何をしてもいいと思いますか」


宮本は即答した。


「思いません」


高梨は少し驚く。


「即答ですね」


「だって」


宮本は笑う。


「法律違反じゃなくても嫌なことなんていっぱいあるじゃないですか」


シンプルだった。


だが。


高梨の胸には妙に残った。


その頃。


ホテル。


榊は資料を見ていた。


そして初めて。


訪問実績と勤務実績を並べていた。


ある看護師。


訪問件数。


異常なし。


ある利用者。


訪問回数。


異常なし。


だが。


数字を重ねると見えてくるものがある。


「……」


榊は画面を見つめる。


複数名訪問。


その割合だけが、


ここ一年で急激に増えていた。


違法ではない。


まだ。


だが。


誰かが意図的に増やしている。


そんな匂いがした。


初めてだった。


榊が施設ではなく、


会社の方を見始めたのは。


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