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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第三部 ホスピス編
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第91話 【面談】


月曜日。


午後二時。


施設長室。


高梨は静かに椅子へ座った。


向かいには施設長。


いつもと変わらない穏やかな表情。


そのはずだった。


だが今日は少しだけ違う。


疲れて見える。


「お忙しいところすみません」


施設長が言った。


「いえ」


高梨は答える。


数秒の沈黙。


施設長は一枚の紙を取り出した。


人事評価表。


高梨真由。


「まず評価の話からします」


施設長が言う。


「今年も高評価です」


高梨は黙る。


「利用者満足度」


「……」


「家族評価」


「……」


「看護実践能力」


「……」


「どれも申し分ありません」


それは嬉しいはずだった。


だが。


高梨の胸は重かった。


本題がまだ来ていない。


「ただ」


やはり来た。


施設長は続ける。


「組織との関わり方について少し相談があります」


高梨は顔を上げる。


施設長と目が合う。


「最近」


施設長は慎重に言葉を選んでいた。


「疑問を持つことが増えていますね」


「はい」


高梨は否定しなかった。


「現場にとって必要なことです」


施設長は頷く。


「私もそう思います」


本心だった。


高梨はそれを感じ取っていた。


だから辛い。


「ですが」


施設長は続ける。


「本部は違う考えです」


部屋が静かになる。


初めて本部という言葉が出た。


「高梨さん」


施設長は言う。


「私はあなたを守りたいと思っています」


高梨は黙る。


「でも」


施設長は苦しそうだった。


「私にも守らなければならないものがあります」


利用者。


職員。


施設。


会社。


その全部だ。


高梨には分かる。


だから怒れない。


怒れないのだ。


「施設長」


高梨が聞く。


「一つだけ教えてください」


施設長は頷く。


「はい」


「私が間違っていますか」


沈黙。


長かった。


施設長はすぐに答えられなかった。


数秒。


十秒。


そして。


「いいえ」


そう答えた。


高梨は少しだけ目を閉じた。


施設長は続ける。


「あなたは間違っていません」


それは救いだった。


同時に絶望でもあった。


「ですが」


施設長の声が小さくなる。


「組織は正しさだけでは動きません」


高梨は笑った。


小さく。


力なく。


「そうですね」


面談はそれで終わった。


施設長室を出る。


廊下の先。


西田がいた。


「面談だったんですか?」


何も知らない顔。


高梨は少しだけ救われる。


「うん」


「何かあったんですか?」


「何も」


嘘だった。


だが西田には言えなかった。


言ったら。


きっと困らせる。


利用者を守りたい西田を。


夕方。


ホテル。


榊は施設長から送られてきた報告書を読んでいた。


面談結果。


対象者に重大な問題なし。


組織適応性に課題あり。


榊は苦笑した。


どこの会社でも使われる言葉だった。


能力に問題はない。


成果も出している。


だが組織に合わない。


その一文で、


人は簡単に排除される。


窓の外を見る。


雨が降っている。


そして榊は思う。


高梨はまだ気付いていない。


いや。


気付いている。


だからこそ。


最近の彼女はよく笑うのかもしれない。


何かを決め始めている人間の顔だった。



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