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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第三部 ホスピス編
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第90話 【正しい人間】


三日後。


メディカルリンク本社。


榊から提出された報告書は、


依頼主にも共有されていた。


オンライン会議。


画面の向こうには、


運営会社の人事部長と法務担当。


そしてメディカルリンクの担当者。


「つまり」


人事部長が言った。


「問題は見つからなかった、と」


「現時点では」


榊が答える。


部長は露骨に不満そうだった。


「内部資料を持ち出している」


「証拠はありません」


「匿名通報している可能性が高い」


「可能性です」


部長は舌打ちしそうな顔になる。


榊は淡々としていた。


事実しか言わない。


「高梨氏は優秀です」


榊が続ける。


「利用者評価も高い」


「……」


「家族評価も高い」


「……」


「勤務態度にも問題はありません」


沈黙。


最悪の報告だった。


会社にとって。


会議終了後。


メディカルリンク担当者が言った。


「珍しいですね」


「何がだ」


「あなたが擁護するなんて」


榊は苦笑した。


「擁護してない」


「じゃあ?」


「事実を言っただけだ」


それだけだった。


その日の午後。


施設内。


西田は新入職員へ説明をしていた。


「困ったことがあったら相談してください」


新人が頷く。


「高梨さんにも聞いてみるといいですよ」


西田が言う。


「看護のことなら一番詳しいですから」


それは本心だった。


高梨は現場で信頼されている。


利用者からも。


職員からも。


だから西田には分からなかった。


なぜ会社が高梨を警戒するのか。


その夜。


施設長室。


施設長は本部と電話していた。


表情は重い。


「それは難しいですね」


静かな声。


「理由がありません」


電話の向こうで何か言われる。


施設長は目を閉じた。


「ええ」


短く答える。


「理解しています」


電話が終わる。


机の上には人事評価表。


高梨真由。


評価は高い。


本来なら昇給対象。


だが。


施設長はしばらくその紙を見つめていた。


そこへノック。


「失礼します」


西田だった。


施設長は慌てて書類を閉じる。


「どうしました?」


「利用者家族からお礼の手紙です」


西田が封筒を差し出す。


施設長は受け取る。


中には手紙が入っていた。


先日亡くなった佐伯の家族からだった。


そこにはこう書かれていた。


父は幸せでした。


最後まで人として生きることができました。


本当にありがとうございました。


施設長は読み終える。


そして小さく息を吐いた。


「どうかしました?」


西田が聞く。


施設長は首を横に振った。


「いえ」


だが。


心の中では別のことを考えていた。


会社は利益を求める。


それは当然だ。


だが。


この手紙の価値は、


決算書には載らない。


夜。


高梨は帰宅前に記録を確認していた。


ふと、


人事システムへ通知が届く。


面談実施のお知らせ。


対象者。


高梨真由。


面談者。


施設長。


日時。


来週月曜日。


高梨は画面を見つめる。


理由は書かれていない。


だが。


なんとなく分かっていた。


組織が動き始めている。


そして。


榊もまた動くことになる。



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