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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第三部 ホスピス編
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第77話 【必要な訪問】


翌日。


榊は訪問看護ステーションの事務所にいた。


施設の隣にある建物。


同じ敷地内。


看板には


訪問看護ステーション結


と書かれている。


「ここも同じ会社です」


案内している西田が言う。


「施設と訪問看護が?」


「ええ」


「なるほど」


榊は頷いた。


珍しい話ではない。


住宅型有料老人ホームの入居者に対し、


同法人あるいは関連会社の訪問看護が入る。


介護業界ではよく見られる形態だった。


事務所の中では看護師たちが記録を入力していた。


慌ただしい様子はない。


しかし手は止まらない。


次々と記録が作成されていく。


「忙しそうだな」


榊が言う。


「訪問件数が多いですから」


西田が答える。


その時。


看護師が声を上げた。


「二人訪問いきます!」


「了解!」


別の看護師が立ち上がる。


二人はそのまま施設へ向かった。


徒歩三十秒。


榊は思わず時計を見る。


「近いな」


「同じ敷地ですから」


西田は当然のように言った。


十分後。


二人の看護師が戻ってくる。


パソコンを開く。


記録を入力する。


そしてまた別の部屋へ向かう。


その光景を見ながら、


榊は施設長から渡された資料を思い出していた。


訪問件数。


非常に多い。


利用者数に対しても。


看護師数に対しても。


かなり多い。


「状態が悪い人が多いのか?」


榊は聞いた。


「終末期ですからね」


西田は答える。


「看取りもあります」


「そうか」


間違った説明ではない。


むしろ正しい。


ホスピス型施設なのだから。


だが。


数字が頭から離れなかった。


午後。


榊は看護主任への聞き取りを行った。


主任は四十代の女性だった。


穏やかな人柄が伝わってくる。


「二人訪問が多いんですね」


榊が聞く。


主任は頷く。


「はい」


「理由は?」


「安全のためです」


即答だった。


「例えば体位変換」


「なるほど」


「移乗介助」


「確かに」


「急変対応」


「うん」


どれも正論だった。


間違いはない。


「一人では難しい場面もありますから」


主任は続ける。


「利用者さんの負担を減らしたいんです」


榊はメモを取る。


そこにも違和感はない。


利用者のため。


家族のため。


職員のため。


全て説明がつく。


その日の夕方。


榊は施設内を歩いていた。


ふと廊下の先に二人の看護師が見えた。


ある利用者の部屋へ入る。


数分後。


出てくる。


穏やかな表情。


利用者も笑顔だった。


問題はない。


何一つ。


しかし。


その時だった。


背後から声がした。


「見えてきましたか?」


振り返る。


知らない男性だった。


作業着姿。


清掃スタッフに見える。


「何がです?」


榊が聞く。


男は周囲を確認した。


誰もいない。


そして小さな声で言った。


「必要だからやっているのか」


男の視線が看護師たちへ向く。


「請求できるからやっているのか」


その言葉を残し、


男はそのまま去っていった。


榊は呼び止めなかった。


ただ立ち尽くしていた。


利用者は幸せだ。


家族も感謝している。


職員も笑っている。


それなのに。


なぜ告発が起きたのか。


その答えが、


少しだけ輪郭を持ち始めていた。


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