第7話 【地下倉庫403】
地下倉庫へ続く通路は、異様に静かだった。
外来棟の喧騒が嘘みたいに遠い。
薄暗い廊下。
古い蛍光灯が時々ちらつく。
宮下遥は、自分の足音だけがやけに響くのを感じていた。
「……ほんとに行くんですか」
前を歩く榊真司は振り返らない。
「内部告発者がわざわざ誘導してる。何かあるのは確実です」
「でも、もし見つかったら……」
「その時はその時です」
淡々としていた。
まるで夜勤の巡回みたいに。
廊下の突き当たり。
古いプレートが貼られている。
――地下倉庫403。
鍵は半開きだった。
遥の喉が鳴る。
榊は数秒扉を見つめ、ゆっくり押し開けた。
冷たい空気が流れ出る。
中には古いカルテ棚と、使われなくなった医療機器が積まれていた。
湿った紙の匂い。
長年放置された空間。
榊はスマホのライトを向ける。
その時だった。
奥の棚に、不自然に新しい段ボールが見えた。
一つだけ、最近運び込まれたような箱。
ガムテープには赤字で番号が書かれている。
“201号案件”
遥が小さく言う。
「案件……?」
榊は無言で箱を開けた。
中に入っていたのは、大量の書類。
勤務記録。
看護記録。
事故報告書。
そして――
死亡診断書。
遥の顔が青ざめる。
榊は一枚を抜き取った。
名前欄。
そこに書かれていたのは。
――相沢美咲。
二十六歳。
三年前に亡くなった看護師。
死因。
“急性心不全”。
だが、その紙の下から別の書類が滑り落ちた。
精神科受診記録。
適応障害。
重度抑うつ。
長時間勤務。
そして最後のページ。
主治医記載欄にこう書かれていた。
> 「職場環境による自殺リスク高い」
遥が震える声を漏らす。
「隠してた……」
榊は答えない。
代わりに、箱の底を見ていた。
そこにはUSBメモリが一本入っている。
黒い、小さなUSB。
ラベルには手書きで、
――“夜勤会議”
榊の目が細くなる。
「当たりですね」
その瞬間。
背後で“ガタン”と音がした。
遥が振り返る。
だが遅かった。
地下倉庫の扉が勢いよく閉まる。
直後。
ガチャ、と金属音。
鍵。
外から閉められた。
「……っ!」
遥が駆け寄り扉を叩く。
「開けて!!」
返事はない。
地下の静寂だけ。
遥の呼吸が速くなる。
「ど、どうするんですか!?」
だが榊は扉を見ていなかった。
スマホのライトをUSBへ向けている。
まるで、こうなることを予想していたように。
「榊さん!?」
榊は静かに言った。
「これ、たぶん“本命”です」
「そんな場合じゃ――」
その時。
倉庫の奥から、小さな電子音が鳴った。
ピッ。
遥が凍りつく。
音は段ボールの山の向こうから聞こえた。
ピッ、ピッ、ピッ――。
一定間隔。
榊の表情が初めて変わる。
そして低く呟いた。
「……最悪だ」
遥の顔が引きつる。
「な、何なんですか……?」
榊は段ボールの隙間を見つめたまま答えた。
「タイマー音です」




