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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
34/108

第34話 【解任請負人】


三ヶ月後。


栃木県南部。


山間に建つ介護施設——

“グリーンヒルズなごみ”。


築年数の古い三階建て。


駐車場には職員の軽自動車が並び、

入口付近には家族対応の張り紙。


> “現在、面会制限中”


曇った空。


湿った風。


榊真司は施設前に立っていた。


黒いスーツ。


手には小さな鞄。


病院編の頃より、

少しだけ表情が薄くなっている。


施設の自動ドアが開く。


中から女性職員が出てきた。


三十代くらい。


疲れた顔。


だが警戒している。


「……どちら様ですか?」


榊は一瞬だけ施設を見上げた。


廊下奥。


怒鳴り声。


ナースコール。


職員同士の張った空気。


病院と似ている。


でも少し違う。


もっと閉鎖的だ。


逃げ場がない。


榊はゆっくり視線を戻す。


そして名刺を差し出した。


女性職員が受け取る。


白い名刺。


会社名だけ。


——メディカルリンク。


女性の顔色が少し変わる。


「……本部から聞いてます」


榊は静かに頷く。


「現場確認に来ました」


その言葉に、

女性職員は少しだけ視線を落とした。


安心したような。


怯えたような。


複雑な顔だった。


榊は施設内へ足を踏み入れる。


薄暗い廊下。


消毒液の匂い。


壁に貼られた“理念”。


> “利用者様に寄り添うケアを”


その横で。


若い介護士が年配職員に怒鳴られていた。


「勝手なことしないで!」


「……すみません」


俯く若い職員。


周囲は見て見ぬふり。


榊は立ち止まる。


ほんの少しだけ、

その光景を見る。


そして歩き出した。


受付奥。


施設長室。


扉には小さな張り紙。


> “現在対応中”


榊はその前で止まる。


中から声が聞こえる。


「だから隠せって言っただろ!!」


怒鳴り声。


誰かが泣いている。


榊は静かに目を閉じた。


病院と同じだ。


場所が変わっただけ。


組織は、

どこも似ている。


その時。


ポケットのスマホが震えた。


画面。


非通知。


榊は数秒見つめ、

通話を取る。


ノイズ。


そして。


榊原修司の声。


> 『どうだ、新しい現場は』


榊は施設長室の扉を見つめたまま答える。


「……最悪ですよ」


修司が小さく笑う。


> 『だから必要なんだ』


通話が切れる。


榊はスマホをしまう。


その顔からは、

まだ何も読めない。


味方なのか。


敵なのか。


壊す側なのか。


守る側なのか。


ただ一つだけ確かなのは。


榊真司はもう、

“外側の人間”ではなくなっていた。


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