表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
35/108

第35話 【案件番号】

第1部 病院編 完


深夜一時。


グリーンヒルズなごみ、二階職員休憩室。


蛍光灯が一つだけ点いている。


榊真司は、一人で書類を読んでいた。


事故報告書。


転倒記録。


家族クレーム。


離職率。


そして職員間トラブル。


ページをめくるたび、

施設の空気が見えてくる。


誰が強いか。


誰が黙るか。


誰が壊れかけているか。


病院と同じだった。


ただ。


ここはもっと逃げ場がない。


榊は机の上の付箋を見る。


赤字で書かれている。


> “問題職員候補”


数名の名前。


その中に、

昼間怒鳴られていた若い介護士の名前もあった。


榊はしばらくその紙を見つめる。


そして、

横に置かれた別のファイルを開く。


表紙。


> “職員整理提案書”


中には、

退職誘導プラン。


配置転換。


面談記録。


SNS監視。


病院編で見たものと、

ほとんど同じ。


榊は静かに息を吐く。


その時。


休憩室のドアが開いた。


昼間の若い介護士だった。


二十代前半くらい。


疲れ切った顔。


榊を見ると、

少し驚いたように頭を下げる。


「あ……すみません」


榊は書類を閉じる。


介護士は冷蔵庫を開け、

ペットボトルの水を取る。


そして小さく呟いた。


「ここ、向いてないのかな……」


榊は何も言わない。


介護士は苦笑する。


「何やっても怒られるんですよね」


沈黙。


遠くで利用者のコール音が鳴る。


だが誰もすぐには動かない。


介護士は俯いたまま言う。


「でも、人足りないから辞めるって言いづらくて」


その言葉。


榊は少しだけ目を閉じる。


昔、

病院でも同じ言葉を聞いた。


何度も。


介護士は去り際、

ふと聞いた。


「榊さんって、本部の人なんですよね」


榊は頷く。


介護士は少し迷ってから言った。


「……この施設、変わると思います?」


休憩室が静かになる。


榊は答えない。


答えられない。


変えるとは何か。


壊すことか。


守ることか。


もう、自分でもわからない。


介護士は小さく頭を下げ、

休憩室を出ていく。


扉が閉まる。


静寂。


榊は机の上の“問題職員候補”リストを見る。


そして。


その紙を、ゆっくり裏返した。


直後。


スマホが震える。


メッセージ通知。


送信者:

——榊原修司。


短い文章。


> 『案件番号 47、開始』


榊は画面を見つめる。


数秒後。


静かにスマホを閉じた。


休憩室の窓の外では、

まだ施設の灯りが消えていなかった。


第2部 介護施設編へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ