表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
31/108

第31話 【通常運転】


翌朝。


病院は、驚くほど普通だった。


外来は始まり。


ナースステーションでは申し送りが行われ。


電話が鳴り。


ストレッチャーが通る。


まるで昨夜の出来事が、

全部幻だったみたいに。


遥は病棟廊下を歩きながら、

妙な感覚に襲われていた。


高坂師長が亡くなって。


片桐も死んで。


旧研究棟まで見つかった。


それなのに。


現場は回る。


いや。


回さなければならない。


ナースコールが鳴る。


「宮下さん、点滴お願いします」


「……はい」


遥は反射的に返事をする。


その瞬間、自分で少し怖くなった。


昨日までの異常が、

日常に飲み込まれていく。


——


一方。


病院管理棟では、緊急会見が開かれていた。


病院長。


法人理事。


弁護士。


そして外部委員会。


「再発防止を徹底し——」


「透明性を持って——」


「職員教育を——」


聞き慣れた言葉が並ぶ。


柴崎刑事は会見映像を無言で見ていた。


その横で、榊真司が缶コーヒーを開ける。


「綺麗にまとめましたね」


柴崎が低く言う。


「……メディカルリンクの匂いがする」


榊は少し笑った。


「もう撤収してる頃ですよ」


「逃がすのか」


榊は会見映像を見る。


病院長が頭を下げている。


だが、その顔に疲弊はあっても、

恐怖はない。


守られた顔だった。


榊が静かに言う。


「尻尾切りは上手いんです」


柴崎が舌打ちする。


「胸糞悪いな」


「でも病院は潰れない」


榊は淡々としていた。


「救急止めたら困る人もいる」


柴崎は黙る。


そこが厄介だった。


全部暴けばいい。


そう単純じゃない。


その時。


会見場後方に、一人の男が映り込んだ。


グレーのスーツ。


細身。


資料を持って歩いている。


一瞬だけ。


本当に一瞬。


だが榊の目が止まる。


「……いた」


柴崎が振り向く。


「誰だ」


榊は画面を見つめたまま言う。


「メディカルリンクの人間です」


「顔知ってるのか」


「七年前に見た」


だが次の瞬間には、

男は映像から消えていた。


まるで最初から存在しなかったみたいに。


——


夕方。


病院裏の喫煙所。


榊は一人でいた。


煙草は吸わない。


ただ座っていた。


そこへ遥が来る。


「……ここにいたんですね」


榊は振り向かない。


遥は少し迷ってから聞いた。


「これで終わりなんですか」


風が吹く。


榊は小さく笑った。


「終わったようにするんですよ」


遥は黙る。


その言い方が、

妙に現実的だった。


榊は続ける。


「現場は、“日常に戻る”のが一番大事なんです」


「でも……」


「じゃないと壊れる」


遥は返せなかった。


確かにそうだ。


看護師も。


医師も。


患者も。


全部止めるわけにはいかない。


榊は立ち上がる。


「だから組織は強い」


その時。


背後から声がした。


「榊真司さんですね」


二人が振り向く。


黒スーツの男。


初対面。


三十代くらい。


笑顔。


だが感情が薄い。


男は名刺を差し出した。


そこには会社名だけ書かれていた。


——メディカルリンク。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ