表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
30/108

第30話 【対価】


受話器越しの声は静かだった。


怒っていない。


焦ってもいない。


それが逆に不気味だった。


榊真司は防火シャッターを見つめたまま答える。


「試してみますよ」


修司が小さく笑う気配。


> 『お前、昔からそうだな』


ノイズ。


遠くで誰かの話し声が聞こえる。


修司はどこか別の場所にいる。


だが病院全体を見下ろしているようだった。


> 『玲奈を連れ出しても意味はない』


榊の目が細くなる。


「意味があるかどうかは、こっちが決めます」


短い沈黙。


そして修司が言った。


> 『真司。“内部告発”っていうのはな、正義じゃない』


遥が思わず顔を上げる。


修司は続けた。


> 『壊す行為だ』


その言葉に、榊は何も返さなかった。


修司の声は穏やかだった。


だが重い。


> 『お前、自分が流した資料で閉鎖された病棟、覚えてるか』


榊の表情がわずかに動く。


> 『辞めた看護師は?』

>

> 『搬送先がなくなった患者は?』


遥が息を呑む。


それは綺麗事では反論できない話だった。


修司は続ける。


> 『だからお前は、最後まで壊しきれない』


沈黙。


榊は受話器を握ったまま言う。


「……兄貴は逆ですね」


> 『何?』


「壊しても、何も感じない」


数秒。


初めて。


修司が少し黙った。


その沈黙だけで、榊は少し目を細める。


完全無敵じゃない。


感情がないわけでもない。


ただ。


切り離している。


修司は静かに言った。


> 『真司。お前は外にいる限り、ずっと同じことを繰り返す』


> 『暴いて、壊して、現場だけ疲弊させる』


玲奈の表情が曇る。


修司は最後に言った。


> 『本当に変えたいなら、内側へ来い』


通話が切れた。


研究室に静寂が落ちる。


誰もすぐには話せない。


遥はようやく理解し始めていた。


榊真司は、

“敵”として狙われているだけじゃない。


“勧誘”されている。


それが一番怖かった。


その時。


病院全体にアナウンスが流れた。


> 『システム障害は復旧しました』

>

> 『ご迷惑をおかけしました』


まるで何事もなかったみたいに。


遥は寒気を覚える。


この病院は、

また通常運転へ戻ろうとしている。


高坂が死んで。


片桐も死んで。


未承認薬まで出てきたのに。


それでも組織は回る。


玲奈が静かに立ち上がる。


「……時間がないわ」


柴崎が振り向く。


「どこ行く」


「私は別ルートで出る」


「一人でか?」


玲奈は少し笑った。


「慣れてる」


その笑いは寂しかった。


榊が聞く。


「また連絡できますか」


玲奈は答えなかった。


代わりに小さな紙を机へ置く。


住所。


施設名。


そして最後に一言。


> “次はここから始まる”


遥がその文字を見る。


介護施設だった。


榊も気づく。


修司が言っていた“次”。


もう始まっている。


玲奈は研究室出口で一度だけ振り返った。


「真司くん」


榊が顔を上げる。


玲奈は静かに言った。


「修司は、あなたを本気で必要としてる」


沈黙。


そして。


「だから気をつけて」


玲奈は暗い通路へ消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ