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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
3/72

第3話 【壊れる音】


赤いランプが点滅していた。


高坂師長の視線がICレコーダーに釘付けになる。


「……録音なんて、勝手に」


「日本では会話当事者の録音は違法ではありません」


榊真司は淡々と言った。


「少なくとも、すぐ警察を呼ぶ案件ではないですね」


高坂の唇が引きつる。


非常階段の狭い空間に沈黙が落ちた。


遥は二人を見比べながら、息を殺している。


高坂は先に視線を外した。


「……くだらない」


そう吐き捨てると、扉へ向かう。


だが榊の声が背中を止めた。


「ところで、総務課の小林さんとは仲が良いんですね」


高坂の肩が止まる。


ほんの一秒。


その一秒で十分だった。


「勤務表の修正、あの人経由でしょう?」


ゆっくり振り返る高坂の目に警戒が宿る。


「……何が言いたいんですか」


「夜勤残業、削ってますよね」


遥の顔色が変わった。


高坂は鼻で笑う。


「証拠でも?」


「まだありません」


榊はあっさり答えた。


「だから聞いてるんです」


その返事に、高坂の表情がわずかに崩れる。


証拠がない。


なら押し切れる。


そう思ったのだろう。


「病院経営って、理想論じゃ回らないんですよ」


高坂は腕を組んだ。


「少し現実を教えてあげます。看護師は足りない。予算もない。多少の調整はどこでもやってる」


「調整」


榊がその言葉を繰り返す。


「便利な言葉ですね」


「現場を守るためです」


「誰の現場を?」


高坂は苛立った。


「あなた、何なんですか? 正義の味方?」


榊は少し黙った。


そして、静かに答える。


「違います」


その声には温度がなかった。


「俺は商売人です」


風が吹き込み、非常階段の鉄が軋む。


「追い込まれた人間と、追い込んだ組織。その間に立って金をもらう」


高坂は目を細めた。


「最低ですね」


「よく言われます」


榊はポケットから一枚のコピーを取り出した。


勤務表だった。


赤ペンで修正された夜勤時間。


その端に、小さな総務印。


高坂の顔から血の気が引く。


「……それをどこで」


「言ったでしょう。まだ証拠はないって」


榊は紙を揺らした。


「これは証拠じゃない。入口です」


高坂は言葉を失った。


遥が初めて見る顔だった。


病棟で絶対だった師長が、追い詰められている。


その時、榊のスマホが震えた。


画面を見る。


非通知。


榊は通話を取る。


数秒後、表情がわずかに変わった。


「……なるほど」


通話を切る。


そして高坂を見た。


「面白くなってきました」


「何……?」


榊は静かに告げた。


「病院長、あなたを切る準備してますよ」


高坂の顔が凍りついた。


榊はその反応を見て、初めて薄く笑った。


この病院は思ったより腐っている。


そして腐った組織ほど、内側から崩れる音は大きい。


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