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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
28/108

第28話 【引き際】


研究室のモニターが落ちた。


ノイズ。


そして静寂。


榊原修司の声は、もう聞こえない。


遥はまだ混乱していた。


替え玉のような女。


MK-47。


玲奈。


そしてメディカルリンク。


病院の裏にあるものが、想像以上に大きすぎる。


玲奈は疲れたように椅子へ座った。


「……修司はもう、この病院を見捨てる気ね」


柴崎刑事が眉をひそめる。


「見捨てる?」


「切り離すってこと」


玲奈はモニターの黒い画面を見つめた。


「問題が大きくなりすぎた時、あの人たちは現場を切るの」


遥が小さく聞く。


「じゃあ病院は……」


「表向きは正常化する」


玲奈は苦く笑った。


「院長辞任。調査委員会。再発防止策。全部やるわ」


その言い方が妙にリアルだった。


柴崎が低く言う。


「……慣れてるな」


「何度も見てきたもの」


空気が重く沈む。


その時。


榊が机上のノートを閉じた。


「玲奈さん」


玲奈が顔を上げる。


「ここから出ましょう」


だが玲奈は静かに首を横に振った。


「私は無理」


遥が驚く。


「え?」


玲奈は研究室を見回した。


古い資料。


薬品棚。


埃を被ったデータ。


「私はずっと、ここで管理されてた」


柴崎の目が鋭くなる。


「監禁か」


玲奈は少し笑う。


「そこまで露骨じゃないわ。“保護”って形」


だが、その目は笑っていなかった。


榊の拳がわずかに握られる。


玲奈は続ける。


「真司くん。修司は、あなたを引き込む気よ」


沈黙。


「あなた、昔から向いてたもの」


遥が反応する。


「向いてたって……」


玲奈は静かに言った。


「人を切り捨てる判断」


空気が止まる。


榊は否定しない。


柴崎だけが低く呟く。


「……だからお前、病院側の考えも理解できるのか」


榊は壁へ寄りかかった。


「理解はできますよ」


そして小さく続ける。


「納得はしませんけど」


その時。


研究室のスピーカーから機械音声が流れた。


> 『セキュリティロック解除まで、残り五分』


玲奈の表情が変わる。


「……まずい」


柴崎が聞く。


「何だ」


「ここ、閉鎖される」


遥が不安そうに周囲を見る。


「閉鎖って……」


玲奈が短く言う。


「証拠ごと消される」


空気が一気に緊張する。


榊が即座に動いた。


「必要資料だけ持ちます。全部は無理だ」


柴崎も頷く。


「USBは?」


玲奈が机の引き出しを開ける。


中には銀色のUSBメモリがあった。


地下倉庫の物とは違う。


玲奈はそれを榊へ渡す。


「これは“元データ”」


榊の目が細くなる。


「……全部入ってるんですか」


玲奈は頷いた。


「MK-47、案件管理、介護施設、製薬会社」


遥が息を呑む。


病院だけじゃない。


やはり外へ繋がっている。


玲奈は静かに言った。


「でも公開したら、多分止まらない」


榊はUSBを見つめる。


重い。


小さいのに。


あまりにも重い。


その時。


病院全体の照明が、一瞬だけ落ちた。




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