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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
24/108

第24話 【白衣の女】


通話が切れたあとも、榊真司は数秒動かなかった。


屋上に吹く風だけが響く。


遥に似ていた。


だが、遥本人のはずがない。


今頃、柴崎と一緒に旧棟にいる。


問題はそこじゃなかった。


——なぜ“遥に似た人物”を見せたのか。


揺さぶり。


警告。


あるいは。


榊はスマホをポケットへ入れ、すぐ屋上を後にした。


——


旧棟カルテ庫。


遥は柴崎刑事と資料を確認していた。


病院名のリスト。


内部メモ。


炎上対応記録。


その中に、妙なファイルがあった。


「……家族対応分類?」


遥がファイルを開く。


中には遺族や関係者の特徴が並んでいた。


> “感情型”

>

> “法的介入型”

>

> “SNS拡大型”

>

> “沈静化可能”


遥の顔色が変わる。


「人を……分類してる」


柴崎も険しい顔になる。


その時、榊が戻ってきた。


遥はすぐ立ち上がる。


「大丈夫でした!?」


榊は短く頷く。


だが様子がおかしい。


柴崎が気づく。


「会ったのか」


「画面越しに」


「どうだった」


榊は少し黙った。


やがて低く言う。


「……変わってませんでした」


それが一番不気味だった。


七年。


片桐の死。


複数の隠蔽。


それでも、兄は平然としている。


遥が聞く。


「何か分かったんですか?」


榊は答える前に、カルテ庫を見回した。


そして一枚の写真を手に取る。


古い職員写真。


そこには若い看護師たちが写っている。


その中の一人を見て、榊の動きが止まった。


遥が覗き込む。


「……誰です?」


榊は静かに言った。


「七年前に亡くなった研修医の婚約者です」


遥が息を呑む。


写真の女性。


確かに、さっき通話越しに見えた白衣の女性に似ていた。


柴崎が低く言う。


「生きてるのか?」


「いや……」


榊は眉をひそめる。


「亡くなったって聞いてた」


空気が冷える。


遥の背筋に嫌な感覚が走る。


その時だった。


カルテ庫の奥から、“カタン”という音がした。


全員が振り向く。


暗い棚の向こう。


誰かいる。


柴崎がすぐ腰に手をやる。


「誰だ!」


返事はない。


だが。


足音。


ゆっくり後ろへ下がる気配。


榊が低く言う。


「待ってください」


そして一人で棚の奥へ進んだ。


暗い。


古いカルテ棚が並ぶ。


その奥。


小さなデスクライトだけが点いていた。


机の上には、一冊のノート。


そして。


その横に置かれた一枚の写真。


榊が手に取る。


そこには。


若い頃の榊真司。


榊原修司。


そして、もう一人の女性が写っていた。


白衣姿で笑っている。


写真の裏には、手書きでこう書かれていた。


> “2016.4.3 中央研究棟”


遥が後ろから聞く。


「……その人、誰なんですか」


榊は写真を見つめたまま、小さく呟いた。


「……兄貴の妻です」


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