第24話 【白衣の女】
通話が切れたあとも、榊真司は数秒動かなかった。
屋上に吹く風だけが響く。
遥に似ていた。
だが、遥本人のはずがない。
今頃、柴崎と一緒に旧棟にいる。
問題はそこじゃなかった。
——なぜ“遥に似た人物”を見せたのか。
揺さぶり。
警告。
あるいは。
榊はスマホをポケットへ入れ、すぐ屋上を後にした。
——
旧棟カルテ庫。
遥は柴崎刑事と資料を確認していた。
病院名のリスト。
内部メモ。
炎上対応記録。
その中に、妙なファイルがあった。
「……家族対応分類?」
遥がファイルを開く。
中には遺族や関係者の特徴が並んでいた。
> “感情型”
>
> “法的介入型”
>
> “SNS拡大型”
>
> “沈静化可能”
遥の顔色が変わる。
「人を……分類してる」
柴崎も険しい顔になる。
その時、榊が戻ってきた。
遥はすぐ立ち上がる。
「大丈夫でした!?」
榊は短く頷く。
だが様子がおかしい。
柴崎が気づく。
「会ったのか」
「画面越しに」
「どうだった」
榊は少し黙った。
やがて低く言う。
「……変わってませんでした」
それが一番不気味だった。
七年。
片桐の死。
複数の隠蔽。
それでも、兄は平然としている。
遥が聞く。
「何か分かったんですか?」
榊は答える前に、カルテ庫を見回した。
そして一枚の写真を手に取る。
古い職員写真。
そこには若い看護師たちが写っている。
その中の一人を見て、榊の動きが止まった。
遥が覗き込む。
「……誰です?」
榊は静かに言った。
「七年前に亡くなった研修医の婚約者です」
遥が息を呑む。
写真の女性。
確かに、さっき通話越しに見えた白衣の女性に似ていた。
柴崎が低く言う。
「生きてるのか?」
「いや……」
榊は眉をひそめる。
「亡くなったって聞いてた」
空気が冷える。
遥の背筋に嫌な感覚が走る。
その時だった。
カルテ庫の奥から、“カタン”という音がした。
全員が振り向く。
暗い棚の向こう。
誰かいる。
柴崎がすぐ腰に手をやる。
「誰だ!」
返事はない。
だが。
足音。
ゆっくり後ろへ下がる気配。
榊が低く言う。
「待ってください」
そして一人で棚の奥へ進んだ。
暗い。
古いカルテ棚が並ぶ。
その奥。
小さなデスクライトだけが点いていた。
机の上には、一冊のノート。
そして。
その横に置かれた一枚の写真。
榊が手に取る。
そこには。
若い頃の榊真司。
榊原修司。
そして、もう一人の女性が写っていた。
白衣姿で笑っている。
写真の裏には、手書きでこう書かれていた。
> “2016.4.3 中央研究棟”
遥が後ろから聞く。
「……その人、誰なんですか」
榊は写真を見つめたまま、小さく呟いた。
「……兄貴の妻です」




