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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
22/108

第22話 【旧棟カルテ庫】


地下駐車場から戻る途中、誰も口を開かなかった。


遥は頭が整理できていなかった。


榊真司の兄。


メディカルリンク側の人間。


しかも片桐より上。


だが一番異様だったのは、榊本人の反応だった。


怒っていない。


驚いてはいる。


でもどこか、“やっぱりそうか”という顔をしていた。


——


旧棟地下。


カルテ庫前。


古い鉄扉には電子ロックが付いていた。


岸本事務長が最後に言っていた場所。


「……ここですか」


遥が小さく言う。


柴崎刑事は周囲を確認した。


「鑑識呼ぶか?」


だが榊は首を横に振る。


「その前に開けます」


「開ける?」


榊はロックパネルを見つめる。


数秒。


そして、迷いなく番号を入力した。


ピッ。


解除音。


遥が目を見開く。


「え、なんで……」


榊は淡々と言った。


「兄貴、昔から同じ番号使う癖あるんです」


空気が少し冷える。


扉がゆっくり開く。


中は暗かった。


古いカルテ棚。


湿った紙の匂い。


そして部屋の中央に、不自然なほど新しいデスクが一つ。


まるで、今も誰かが使っているみたいに。


柴崎が低く言う。


「……現役の部屋だな」


榊は無言でデスクへ近づく。


ノートPC。


シュレッダー。


簡易金庫。


さらに壁には、複数の病院名が貼られていた。


東陵総合中央病院。


北関東医科大。


東葉記念病院。


他にもいくつもある。


遥の背筋が寒くなる。


「こんなの……」


柴崎が壁を見る。


病院名の横には色分けされた付箋。


赤。


黄。


青。


そしてメモ。


> “炎上リスク高”

>

> “遺族対応済”

>

> “SNS監視継続”


遥が吐き気を覚える。


人の死が、業務管理みたいに並んでいた。


その時。


榊の手が止まる。


デスク上。


一枚の写真立て。


そこには若い頃の二人の男が写っていた。


一人は榊真司。


そして隣で笑っているのが——榊原修司。


遥は初めて見る。


榊が、本当に普通に笑っている顔を。


柴崎も気づいた。


「……仲良かったのか」


榊はしばらく答えなかった。


やがて小さく言う。


「昔は」


その声は妙に静かだった。


だが次の瞬間。


部屋の奥から“ウィン”という機械音が響いた。


全員が振り向く。


古いプリンター。


勝手に起動している。


紙がゆっくり吐き出される。


一枚。


また一枚。


遥が近づく。


そこに印刷されていたのは。


——榊真司の履歴書。


さらに。


七年前の内部調査記録。


“情報漏洩関与”。


“監視対象”。


そして最後のページ。


大きく赤字で書かれていた。


> “処理保留”


遥の呼吸が止まる。


柴崎が低く呟く。


「……お前、ずっと追われてたのか」


榊は紙を見つめたまま動かない。


その時。


プリンターが最後の一枚を吐き出す。


真っ白な紙。


中央に、一文だけ。


> 『会いたいか、真司』


空気が凍った。


そして紙の下には。


待ち合わせ場所が印字されていた。


——屋上。22時。



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