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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
21/108

第21話 【榊原修司】



「……榊原?」


遥が思わず聞き返す。


地下駐車場の空気が変わった。


柴崎刑事はすぐ榊真司を見る。


だが。


榊の表情が、初めて完全に止まっていた。


「……嘘だろ」


小さな声だった。


鑑識がスマホ画面を差し出す。


通話履歴。


死亡推定時刻の数分前。


最後の発信先。


――榊原修司。


柴崎が低く聞く。


「知ってるのか」


榊は答えない。


いや、答えられない。


その沈黙が、逆に答えだった。


遥が不安そうに言う。


「榊さん……?」


榊はゆっくりスマホを受け取った。


指先がわずかに震えている。


今までどんな場面でも崩れなかった男が。


柴崎の目が鋭くなる。


「誰だ」


数秒。


長い沈黙。


やがて榊は低く言った。


「……兄です」


遥が息を呑む。


柴崎も黙る。


榊は視線を落としたまま続ける。


「榊原修司。七年前、メディカルリンク側にいた人間です」


空気が凍った。


遥の頭が追いつかない。


「え……でも……」


「俺とは十年以上会ってない」


榊の声は乾いていた。


「兄貴は昔から頭が良かった。医療経営コンサルに入って、そのままメディカルリンクへ行った」


柴崎が険しい顔になる。


「つまりお前、最初から繋がってたのか」


榊が即座に顔を上げる。


「違う」


その声だけ、珍しく感情が強かった。


「俺は兄貴の仕事を知らなかった」


地下駐車場に沈黙が落ちる。


遥はようやく理解し始める。


七年前。


榊が見た“案件リスト”。


そこに、兄の名前があったのか。


だからデータを全部出せなかった。


だから消した。


榊は壁へ寄りかかった。


疲れたように目を閉じる。


「……最悪だ」


柴崎が低く言う。


「片桐は、その兄と通話してた」


「ええ」


「つまり片桐のさらに上にいる」


榊は小さく頷く。


その時だった。


鑑識がまた声を上げる。


「柴崎さん、もう一つ」


「何だ」


「片桐のスマホ、通話録音アプリが入ってました」


全員の空気が変わる。


鑑識は続ける。


「最後の通話、録音残ってます」


沈黙。


柴崎が短く言う。


「再生しろ」


ノイズ。


地下駐車場らしき反響音。


そして片桐の声。


『……榊が気づきました』


遥の背筋が寒くなる。


続いて、低い男の声。


落ち着いている。


感情がない。


> 『なら予定を早めろ』


榊の顔色が変わる。


遥は気づく。


この声を、榊は知っている。


録音の中で片桐が言う。


『でもUSBが――』


男の声。


> 『回収できなくても構わない』


数秒の沈黙。


そして最後に。


> 『真司は、もう戻れない』


録音が切れた。


地下駐車場が静まり返る。


誰もすぐに口を開けない。


遥が震える声で聞く。


「……お兄さん、なんですか」


榊は答えない。


だがその目には。


怒りでも恐怖でもない。


もっと厄介な感情が浮かんでいた。


——諦め。





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