第20話 【榊が消したもの】
地下駐車場の空気は張り詰めていた。
「監視カメラまで外注……?」
遥が呟く。
榊真司は片桐の遺体から目を離さない。
「病院って、思ってる以上に外部業者だらけなんですよ」
柴崎刑事が腕を組む。
「メディカルリンクが映像触れるってことか」
「可能性は高い」
榊は立ち上がった。
「俺を映すことも、消すこともできる」
遥が不安そうに聞く。
「でも、なんで榊さんを……」
その問いに、榊は少し黙った。
やがて低く言う。
「……七年前、俺が余計なことしたからです」
柴崎が視線を向ける。
榊は乾いた声で続けた。
「北関東医科大の件。あれ、俺は内部資料を流しただけじゃない」
空気が変わる。
「メディカルリンクのサーバーにも入った」
遥が息を呑む。
「え……」
「当時、病院側の共有端末からログイン情報抜けたんですよ」
榊は淡々としていた。
だが内容は異常だった。
「そこで見た」
柴崎が低く聞く。
「何を」
榊の目が冷える。
「全国の案件リストです」
遥の背筋が凍る。
案件。
またその言葉。
榊は続けた。
「過労死。自殺。労災隠し。内部告発。“炎上リスク管理”って名前で一覧化されてた」
佐伯薬剤師が青ざめる。
「そんなの……」
「病院だけじゃない。介護施設、大学、製薬関連まであった」
柴崎が険しい顔になる。
「……証拠は」
榊は静かに笑った。
「持ち出しました」
空気が止まる。
遥が理解する。
だからだ。
メディカルリンクにとって、榊真司は“ただの告発屋”じゃない。
内部まで見た人間なんだ。
柴崎が低く言う。
「お前、そのデータどうした」
数秒沈黙。
そして榊は答える。
「消しました」
遥が目を見開く。
「え?」
「全部は持てなかった。追跡もされてた」
榊は壁にもたれた。
「だから一部だけ流して、残りは消した」
柴崎が眉をひそめる。
「なんで」
榊の声が少しだけ重くなる。
「見ちゃいけない名前があったからです」
空気が静まる。
遥が小さく聞く。
「……誰の名前?」
榊は答えない。
だがその沈黙で十分だった。
病院一つじゃない。
もっと上。
もっと危険な場所。
その時。
鑑識の一人が慌てて近づいてきた。
「柴崎さん!」
「何だ」
「片桐のスマホ、復旧できました!」
柴崎が振り向く。
鑑識は続けた。
「死ぬ直前、誰かと通話してます!」
空気が変わる。
「相手は」
鑑識は一瞬迷った。
そして低く言った。
「……登録名、“S”です」
遥が凍りつく。
榊も動かない。
柴崎がゆっくり聞く。
「榊、お前か?」
だが鑑識は首を横に振った。
「違います」
数秒の沈黙。
そして。
「フルネーム登録されてました」
鑑識はスマホ画面を見つめながら言った。
「――“榊原修司”です」




