第18話 【録音データ】
病院の小会議室。
机の上に置かれたスマホから、ノイズ混じりの音声が流れていた。
時刻表示。
――昨日 18:42。
高坂師長の声。
かなり荒れている。
『……だから、もう無理なんです』
続いて男の声。
片桐だった。
『困りますね、高坂さん』
遥の背筋が冷える。
音声の中で、高坂は明らかに追い詰められていた。
『全部、現場に押し付けて……! もう私だけじゃ――』
『感情論は結構です』
片桐の声は穏やかだった。
だが、異様に冷たい。
『USBを回収してください。それで終わります』
『終わるわけないでしょ……!』
ガタン、と椅子が動く音。
高坂の呼吸が荒い。
そして数秒後。
別の声が入った。
遥が息を呑む。
榊真司の声だった。
『……高坂師長』
会議室の空気が変わる。
柴崎刑事が榊を見る。
だが榊は動じない。
録音の中で、高坂が叫ぶ。
『あんたのせいでこうなったのよ!!』
『違います』
榊の声は静かだった。
『最初から壊れてた』
ノイズ。
誰かが歩く音。
高坂が泣いている。
『どうすればよかったのよ……』
数秒の沈黙。
そして榊が低く言った。
『告発してください』
空気が止まる。
『もう隠せない』
高坂が震える声で言う。
『……私が全部やったってことにされる』
『その可能性は高いですね』
『じゃあどうしろっていうの!?』
ここで、録音の音質が乱れた。
衣擦れ。
机がぶつかる音。
そして片桐の声。
『榊さん、余計なことはやめてください』
次の瞬間。
高坂の悲鳴。
ガタン!!
何かが倒れる音。
遥が思わず身を縮める。
録音はそこで終わっていた。
沈黙。
誰もすぐには話さない。
やがて柴崎が低く言った。
「……転落直前だな」
佐伯薬剤師が震える声を漏らす。
「これ、もう傷害事件じゃ……」
だが榊は録音機を見つめたままだった。
遥が不安そうに聞く。
「榊さん……」
榊は小さく呟く。
「おかしい」
柴崎が反応する。
「何がだ」
榊は録音時間を指差した。
「短すぎる」
全員が画面を見る。
録音時間。
――2分13秒。
榊は静かに続ける。
「高坂師長の自動録音設定、前のデータだと最低五分単位なんです」
柴崎の目が細くなる。
「途中で切られた?」
「編集されてる」
空気が凍る。
遥が青ざめる。
「じゃあ……誰かが消したんですか」
榊は頷く。
「しかも、“俺の名前が入る部分は残したまま”」
柴崎が低く呟く。
「……お前に疑い向けるためか」
その瞬間。
会議室の外が騒がしくなった。
複数の足音。
そして病院職員の焦った声。
「ちょっと待ってください!」
ドアが勢いよく開く。
入ってきたのは制服警官だった。
表情が硬い。
「柴崎さん!」
「なんだ」
警官は一瞬榊を見た。
そして言った。
「片桐誠、見つかりました」
遥が息を呑む。
柴崎が聞く。
「どこだ」
警官は低く答えた。
「旧棟地下駐車場です」
数秒の沈黙。
そして続けた。
「……死亡してます」




