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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
18/108

第18話 【録音データ】


病院の小会議室。


机の上に置かれたスマホから、ノイズ混じりの音声が流れていた。


時刻表示。


――昨日 18:42。


高坂師長の声。


かなり荒れている。


『……だから、もう無理なんです』


続いて男の声。


片桐だった。


『困りますね、高坂さん』


遥の背筋が冷える。


音声の中で、高坂は明らかに追い詰められていた。


『全部、現場に押し付けて……! もう私だけじゃ――』


『感情論は結構です』


片桐の声は穏やかだった。


だが、異様に冷たい。


『USBを回収してください。それで終わります』


『終わるわけないでしょ……!』


ガタン、と椅子が動く音。


高坂の呼吸が荒い。


そして数秒後。


別の声が入った。


遥が息を呑む。


榊真司の声だった。


『……高坂師長』


会議室の空気が変わる。


柴崎刑事が榊を見る。


だが榊は動じない。


録音の中で、高坂が叫ぶ。


『あんたのせいでこうなったのよ!!』


『違います』


榊の声は静かだった。


『最初から壊れてた』


ノイズ。


誰かが歩く音。


高坂が泣いている。


『どうすればよかったのよ……』


数秒の沈黙。


そして榊が低く言った。


『告発してください』


空気が止まる。


『もう隠せない』


高坂が震える声で言う。


『……私が全部やったってことにされる』


『その可能性は高いですね』


『じゃあどうしろっていうの!?』


ここで、録音の音質が乱れた。


衣擦れ。


机がぶつかる音。


そして片桐の声。


『榊さん、余計なことはやめてください』


次の瞬間。


高坂の悲鳴。


ガタン!!


何かが倒れる音。


遥が思わず身を縮める。


録音はそこで終わっていた。


沈黙。


誰もすぐには話さない。


やがて柴崎が低く言った。


「……転落直前だな」


佐伯薬剤師が震える声を漏らす。


「これ、もう傷害事件じゃ……」


だが榊は録音機を見つめたままだった。


遥が不安そうに聞く。


「榊さん……」


榊は小さく呟く。


「おかしい」


柴崎が反応する。


「何がだ」


榊は録音時間を指差した。


「短すぎる」


全員が画面を見る。


録音時間。


――2分13秒。


榊は静かに続ける。


「高坂師長の自動録音設定、前のデータだと最低五分単位なんです」


柴崎の目が細くなる。


「途中で切られた?」


「編集されてる」


空気が凍る。


遥が青ざめる。


「じゃあ……誰かが消したんですか」


榊は頷く。


「しかも、“俺の名前が入る部分は残したまま”」


柴崎が低く呟く。


「……お前に疑い向けるためか」


その瞬間。


会議室の外が騒がしくなった。


複数の足音。


そして病院職員の焦った声。


「ちょっと待ってください!」


ドアが勢いよく開く。


入ってきたのは制服警官だった。


表情が硬い。


「柴崎さん!」


「なんだ」


警官は一瞬榊を見た。


そして言った。


「片桐誠、見つかりました」


遥が息を呑む。


柴崎が聞く。


「どこだ」


警官は低く答えた。


「旧棟地下駐車場です」


数秒の沈黙。


そして続けた。


「……死亡してます」

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