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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
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第17話 【七年前の夜】


旧棟のカンファレンス室は静まり返っていた。


“メディカルリンク”。


その名前が出た瞬間から、榊真司の空気が変わっていた。


遥にもわかる。


あの榊が、初めて警戒している。


柴崎刑事が低く聞いた。


「……七年前、何があった」


榊はすぐには答えなかった。


古い机に視線を落としたまま、小さく息を吐く。


「北関東医科大の研修医自殺案件」


遥は黙って聞いている。


榊は続けた。


「最初、俺はただの人事担当だった。過労死ライン超えた勤務表を修正して、“自主学習”って処理してた」


佐伯薬剤師の顔が強張る。


榊の声は静かだった。


「でも研修医が死んだ。二十七歳。遺書には“助けてほしかった”って書いてあった」


部屋が重く沈む。


「病院側は当然隠そうとした。そこに来たのがメディカルリンクだ」


柴崎が腕を組む。


「何をした」


「証拠整理ですよ」


榊は乾いた笑いを漏らした。


「勤務記録修正。関係者聞き取り。SNS監視。遺族対応」


遥が呟く。


「全部、専門で……?」


「病院が炎上しないようにするプロ集団です」


佐伯が青ざめる。


「そんな会社……」


「表には出ませんよ」


榊は続けた。


「でも俺、そこで見たんです」


空気が変わる。


榊の目が、遠い過去を見ていた。


「メディカルリンクの担当者が、遺族にこう言った」


榊は低い声で再現する。


> 『お子さんが弱かったとは思いませんか?』


遥が息を呑む。


榊の拳がわずかに握られる。


「その瞬間、理解したんです」


柴崎が静かに聞く。


「何を」


榊は顔を上げた。


「こいつら、人の死を“案件”として処理してる」


沈黙。


その時。


カンファレンス室のドアがノックされた。


全員が振り向く。


若い事務員だった。


顔色が悪い。


「……柴崎刑事、鑑識から連絡です」


「何だ」


事務員は迷うように口を開く。


「高坂師長のスマホ、復旧できたみたいで……」


柴崎が立ち上がる。


「何が入ってた」


事務員は答えた。


「転落直前の録音データです」


空気が凍る。


榊の目が細くなる。


「誰が録音してた?」


「自動録音アプリみたいです。会話が残ってて……」


事務員は息を飲んだ。


「その中に、“片桐”って名前が何度も出てきます」


遥の背筋が寒くなる。


やはり片桐が。


だが次の言葉で、さらに空気が変わった。


「あと……もう一人」


榊が聞く。


「誰だ」


事務員は震える声で言った。


「……榊さん、あなたの名前も入ってます」


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