第16話 【病院の外側】
「未承認薬?」
遥が聞き返す。
柴崎は頷いた。
「成分は鎮静系。国内採用データなし。並行輸入か、個人ルートか……とにかく病院正式採用じゃない」
管理棟裏の空気が重く沈む。
榊真司だけが静かだった。
むしろ、何かが繋がった顔をしている。
「……なるほど」
柴崎が眉をひそめる。
「何かわかったのか」
榊は少し考え、低く言った。
「この病院、“現場隠し”だけじゃないかもしれない」
遥が不安そうに見る。
「どういう意味ですか」
「未承認薬って普通、病院単体じゃ動かないんですよ」
榊は続ける。
「製薬ルート、輸入、治験、監査回避。どこか外部が絡んでる」
柴崎も黙る。
確かにそうだった。
地方病院だけで扱える話ではない。
その時。
管理棟の自動ドアが開く。
白衣姿の薬剤師が慌てて走ってきた。
三十代くらいの女性。
顔色が悪い。
「榊さん……!」
榊が振り返る。
「誰です?」
「薬剤部の佐伯です。岸本事務長から聞きました」
周囲を気にしながら、小声で続ける。
「ここじゃまずいです」
——
数分後。
旧棟二階、使われていないカンファレンス室。
窓には埃。
椅子も古い。
佐伯はドアを閉めるなり言った。
「その薬、多分“MK-47”です」
柴崎が反応する。
「知ってるのか?」
佐伯は頷いた。
「海外の鎮静補助薬です。日本未承認。でも一部で噂になってた」
遥が聞く。
「どういう薬なんですか」
「少量で意識レベルを落としやすい。代謝も早い」
空気が重くなる。
榊が低く言う。
「……痕跡が残りにくい」
佐伯は唇を噛む。
「数ヶ月前、薬剤部の在庫確認で一度だけ見たんです。でも正式記録がなかった」
柴崎が険しい顔になる。
「誰が持ち込んだ」
「わかりません。ただ……」
佐伯が迷う。
言うべきか悩んでいる。
榊は急かさない。
やがて佐伯は小さく言った。
「法人監査室の人が、地下搬入口から業者と会ってました」
片桐。
遥の背筋が冷える。
だが榊はまだ納得していない顔だった。
「業者名は?」
「……メディカルリンク」
その瞬間。
榊の表情が初めて大きく変わる。
柴崎が気づく。
「知ってるのか」
榊はゆっくり椅子へ腰掛けた。
そして低く呟く。
「最悪だな……」
遥が不安そうに聞く。
「何なんですか、その会社」
榊は数秒黙った。
やがて静かに答える。
「七年前、北関東医科大の時にいた業者です」
部屋が静まり返る。
柴崎の目が細くなる。
榊は続けた。
「医療コンサル、薬剤管理、監査対策。表向きは普通の会社」
「裏は?」
榊の声が冷える。
「事故処理です」
遥が息を止める。
榊は窓の外を見た。
灰色の空。
古い病院棟。
そして静かに言う。
「……病院を守る専門家がいる」




