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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
15/108

第15話 【倒れた事務長】


管理棟の階段下には、人だかりができていた。


「離れてください!」


看護師の声。


駆け寄る救急担当。


床には岸本事務長が倒れていた。


額から出血。


意識混濁。


右手は不自然な方向へ曲がっている。


遥の顔が強張る。


「……また転落?」


柴崎刑事はすぐ周囲を見た。


階段。


手すり。


踊り場。


そして人の動き。


榊真司だけは、岸本本人を見ていた。


「意識レベルは?」


救急担当医が答える。


「JCSⅡ-20くらい。呼びかけには反応ある」


岸本は苦しそうに呼吸している。


だがその唇が、小さく動いた。


「……かた……ぎり……」


遥が息を呑む。


片桐。


さっきまでここにいた法人監査室の男。


だが振り返ると、もう姿はなかった。


柴崎が舌打ちする。


「消えたか……!」


その時、岸本が急に榊の袖を掴んだ。


力は弱い。


それでも必死だった。


「……地下……まだ……ある……」


榊が身を寄せる。


「何がある」


岸本の呼吸が乱れる。


「旧棟……カルテ庫……」


そこで意識が落ちた。


モニター装着。


ストレッチャー搬送。


周囲が慌ただしくなる。


だが榊の頭は別のことで動いていた。


地下倉庫403だけじゃない。


“旧棟カルテ庫”。


まだ隠している場所がある。


——


数分後。


管理棟裏の喫煙スペース。


柴崎は煙草を握り潰した。


火はつけていない。


「偶然が続きすぎだ」


榊が壁にもたれる。


「ええ」


「高坂転落。岸本転落」


「しかも二人とも、USBや過去案件に関与してる」


柴崎は低く言う。


「片桐が黒にしか見えん」


だが榊は即答しなかった。


遥が不思議そうに見る。


「違うんですか?」


榊は静かに答える。


「“黒幕っぽすぎる”」


空気が止まる。


「え?」


「片桐は確かに何か知ってる。でも、自分から前に出すぎてる」


柴崎も気づいたように眉を動かす。


「……陽動か」


榊は頷く。


「本当に危ない奴は、もっと後ろにいる」


遥の背筋が寒くなる。


じゃあ片桐ですら“中間”なのか。


その時だった。


柴崎の携帯が鳴る。


通話を取った瞬間、表情が変わる。


「……何?」


数秒。


そして低く言った。


「わかった、今行く」


通話が切れる。


榊が聞く。


「何か出ました?」


柴崎は短く答えた。


「高坂師長の血液検査だ」


遥が緊張する。


柴崎は二人を見た。


「鎮静系薬剤が通常量以上に出た」


空気が凍る。


遥の脳裏に、昨夜の休憩室が浮かぶ。


散乱した机。


注射キャップ。


争った跡。


榊は小さく呟く。


「……やっぱりか」


柴崎は続ける。


「ただ妙なんだ」


「何が」


「病院採用薬じゃない」


榊の目が細くなる。


柴崎は低い声で言った。


「海外製の未承認ルート品だ」

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