第15話 【倒れた事務長】
管理棟の階段下には、人だかりができていた。
「離れてください!」
看護師の声。
駆け寄る救急担当。
床には岸本事務長が倒れていた。
額から出血。
意識混濁。
右手は不自然な方向へ曲がっている。
遥の顔が強張る。
「……また転落?」
柴崎刑事はすぐ周囲を見た。
階段。
手すり。
踊り場。
そして人の動き。
榊真司だけは、岸本本人を見ていた。
「意識レベルは?」
救急担当医が答える。
「JCSⅡ-20くらい。呼びかけには反応ある」
岸本は苦しそうに呼吸している。
だがその唇が、小さく動いた。
「……かた……ぎり……」
遥が息を呑む。
片桐。
さっきまでここにいた法人監査室の男。
だが振り返ると、もう姿はなかった。
柴崎が舌打ちする。
「消えたか……!」
その時、岸本が急に榊の袖を掴んだ。
力は弱い。
それでも必死だった。
「……地下……まだ……ある……」
榊が身を寄せる。
「何がある」
岸本の呼吸が乱れる。
「旧棟……カルテ庫……」
そこで意識が落ちた。
モニター装着。
ストレッチャー搬送。
周囲が慌ただしくなる。
だが榊の頭は別のことで動いていた。
地下倉庫403だけじゃない。
“旧棟カルテ庫”。
まだ隠している場所がある。
——
数分後。
管理棟裏の喫煙スペース。
柴崎は煙草を握り潰した。
火はつけていない。
「偶然が続きすぎだ」
榊が壁にもたれる。
「ええ」
「高坂転落。岸本転落」
「しかも二人とも、USBや過去案件に関与してる」
柴崎は低く言う。
「片桐が黒にしか見えん」
だが榊は即答しなかった。
遥が不思議そうに見る。
「違うんですか?」
榊は静かに答える。
「“黒幕っぽすぎる”」
空気が止まる。
「え?」
「片桐は確かに何か知ってる。でも、自分から前に出すぎてる」
柴崎も気づいたように眉を動かす。
「……陽動か」
榊は頷く。
「本当に危ない奴は、もっと後ろにいる」
遥の背筋が寒くなる。
じゃあ片桐ですら“中間”なのか。
その時だった。
柴崎の携帯が鳴る。
通話を取った瞬間、表情が変わる。
「……何?」
数秒。
そして低く言った。
「わかった、今行く」
通話が切れる。
榊が聞く。
「何か出ました?」
柴崎は短く答えた。
「高坂師長の血液検査だ」
遥が緊張する。
柴崎は二人を見た。
「鎮静系薬剤が通常量以上に出た」
空気が凍る。
遥の脳裏に、昨夜の休憩室が浮かぶ。
散乱した机。
注射キャップ。
争った跡。
榊は小さく呟く。
「……やっぱりか」
柴崎は続ける。
「ただ妙なんだ」
「何が」
「病院採用薬じゃない」
榊の目が細くなる。
柴崎は低い声で言った。
「海外製の未承認ルート品だ」




