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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
14/108

第14話 【監査室の男】


翌朝。


病院内は異様な空気に包まれていた。


高坂師長転落。


警察介入。


法人本部来訪。


噂だけが先に広がり、誰も真実を知らない。


ナースステーションでは、職員たちが小声で話していた。


「昨日、刑事来てたよね……」


「労基も入るって話」


「SNSの件、マジなのかな」


誰もが落ち着かない。


だが病院業務は止まらない。


点滴は回り、ナースコールは鳴る。


それが病院だった。


——


管理棟一階。


自販機前。


柴崎刑事は缶コーヒーを一本投げた。


榊真司が片手で受け取る。


「珍しいですね。刑事が奢るなんて」


「経費じゃない」


柴崎は壁にもたれた。


数秒、無言。


やがて低く言う。


「……七年前だ」


榊は缶を開ける手を止めない。


「何がです?」


「お前と初めて会った事件」


遥は少し離れた場所で、その会話を聞いていた。


柴崎は続ける。


「北関東医科大の研修医自殺」


榊の目がわずかに動く。


「覚えてますよ」


「お前、内部資料を週刊誌に流したな」


「証拠でした」


「結果、救急閉鎖。看護師大量離職。患者受け入れ停止」


柴崎の声は重かった。


「現場は地獄だった」


榊は黙る。


柴崎はコーヒーを一口飲んだ。


「でもな。あの時、お前が流さなきゃ事件は埋もれてた」


遥は初めて知る。


柴崎は榊を嫌っているわけじゃない。


警戒しているんだ。


“壊した後”を知っているから。


その時。


管理棟入口の自動ドアが開いた。


スーツ姿の男。


四十代前半。


細身。


銀縁眼鏡。


法人本部監査室の人間だった。


会議室Aにもいた男。


男は榊を見ると、薄く笑った。


「榊さん」


柴崎の空気が変わる。


「……あんたか」


男は名刺を差し出した。


――法人監査室 片桐誠。


榊は受け取らない。


片桐は気にせず続けた。


「少しお話できますか」


「内容によります」


「取引です」


病院の空気が一段冷えた気がした。


片桐は周囲を確認し、静かに言う。


「USBを渡してください」


榊は笑わない。


「断ったら?」


片桐は肩をすくめる。


「別に。困るのは病院側です」


「あなたじゃなく?」


片桐は初めて少しだけ目を細めた。


「……誤解しているようですが」


その声は穏やかだった。


だが妙に冷たい。


「我々は病院を守っているんです」


榊が低く返す。


「三人死んでも?」


片桐は即答した。


「組織では時々、不幸な事故が起きます」


遥の背筋が凍る。


この男は本気で言っている。


悪意すらない。


ただ“必要な処理”として話している。


榊は静かに片桐を見つめた。


そして小さく言う。


「……一番厄介なタイプだな」


片桐は笑った。


「褒め言葉として受け取ります」


その時だった。


病院のどこかで、女性の悲鳴が響いた。


全員が振り向く。


直後、廊下を若い看護師が走ってくる。


顔面蒼白。


「た、大変です!!」


岸本事務長が、管理棟の階段下で倒れていた。


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