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『解任請負人』  作者: 二交代の看護師
第一部 病院編
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第10話 【会議室A】


地下倉庫の外で足音が止まった。


複数人。


革靴の音。


遥の喉が鳴る。


岸本が低く言った。


「……余計なことは話すな」


榊真司は無反応だった。


数秒後。


扉の向こうから、落ち着いた男の声が響く。


「開けてください、岸本さん」


病院長だった。


岸本は小さく舌打ちし、倉庫の扉を開ける。


外には三人の男。


病院長。


総務課長。


そしてスーツ姿の法人本部職員。


全員の視線が榊へ集まった。


病院長・藤堂は五十代後半。


白衣ではなく高級そうなスーツを着ている。


医者というより経営者の顔だった。


「……あなたが榊さんですか」


榊は軽く会釈する。


「どうも」


藤堂は倉庫の中を見た。


散乱した書類。


開かれた段ボール。


消去済みのPC。


その一瞬だけ、表情が曇る。


だがすぐ笑顔を作った。


「場所を変えましょう」


榊は頷く。


「ええ。そのほうがいい」


遥は不安そうに榊を見る。


だが榊は落ち着いていた。


まるで、ここからが本番だと言うように。


——


数分後。


病院管理棟三階。


会議室A。


長机を挟み、空気が鋭く張り詰めている。


藤堂病院長。


岸本事務長。


法人本部の男。


そして榊と遥。


紙コップのコーヒーだけが妙に現実感を持っていた。


最初に口を開いたのは藤堂だった。


「率直に聞きます」


穏やかな声。


だが目は笑っていない。


「どこまで持っていますか?」


榊はスマホを机に置く。


「動画、録音、勤務記録。あと内部資料少々」


法人本部の男が眉をひそめる。


「違法入手では?」


「内部告発ですよ」


榊は即答した。


藤堂は指を組む。


「目的は金ですか」


「最初は」


「今は違う、と」


「ええ」


沈黙。


藤堂は榊を観察していた。


値踏みするように。


やがて小さく笑う。


「あなた、少し私たちに似ていますね」


遥が顔をしかめる。


だが榊は否定しない。


藤堂は続けた。


「組織の汚れ方を理解している」


「理解したくてしたわけじゃない」


「ですが利用している」


会議室が静まり返る。


榊と藤堂。


二人だけが異様に落ち着いていた。


藤堂は椅子にもたれた。


「では交渉しましょう」


岸本が驚いた顔をする。


「院長……!」


藤堂は制した。


「騒いでも仕方ない。SNS時代です。隠蔽はコストが高い」


その言葉に、遥は寒気を覚えた。


人が死んだ話をしているのに。


まるで経営会議だった。


藤堂は淡々と続ける。


「宮下さんへの退職強要は撤回。高坂師長は異動。調査委員会も設置する」


遥が目を見開く。


だが榊は動かない。


「足りないですね」


藤堂の目が細くなる。


「何が」


榊は静かに言った。


「三人の死亡案件。その再調査です」


空気が凍る。


岸本が青ざめる。


法人本部の男も顔をしかめた。


藤堂だけが、数秒沈黙した後、小さく笑った。


「……そこまで行きますか」


「行きます」


「病院は潰れますよ」


榊は少しだけ前へ身を乗り出した。


「潰れるべきものなら」


その瞬間だった。


会議室の扉が突然開く。


全員が振り返る。


立っていたのは、一人の女性看護師だった。


顔色は真っ白。


息を切らしている。


そして震える声で言った。


「……四階西で、飛び降りです」

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