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第七章 怪しい若当主たち 3

 ……――黄金色のタッセルつきの赤天鵞絨のカーテンを垂らしたあまり趣味がいいとは言えないベッドで跳ね起きたクリス・マスグレーヴは、醒めた瞬間、喉が焼け付くような渇きを覚えた。


 のろのろと手を伸ばしてサイドテーブルの呼び鈴を鳴らすなり、音もなくドアが開いて長身の人影が滑りこみ、初夏には厚手すぎるベッドのカーテンを開けてくれる。


「お呼びでございますか旦那様」

 慇懃沈着に訊ねてくるのは町屋敷の執事のクレーヴス。

 灰色の髪に灰色の目、先代様からお仕えしているザ・執事! といった印象の男だ。


「お呼びに決まっているだろ、呼び鈴を鳴らしたんだから!」クリス・マスグレーヴ二十六歳は駄々っ子のように言い、愛嬌のある丸顔が許す限り険しくクレーヴス執事を睨み上げた。

「水を持ってきてくれ。喉が痛いんだ」

 その声は実際ガラガラと掠れていた。

 クレーヴス執事がわずかに眉を寄せ、一瞬躊躇ってから訊ねる。

「……またあの夢でございますか?」

 途端、クリス・マスグレーヴはさっと顔を紅潮させた。

「余計なことを言うなよ使用人が! さっさと用事を済ませ!」

「――申し訳ありません」

 執事が執事らしい忍耐力を発揮して頭をさげ、すぐさま寝室を後にした。


 まだ夜明けの前の時間だ。

 ベッドの左右の寝台で蝋燭が燃えている。

 ジジ、ジジ、と焔の燃えるか細い音を聞きながら、クリス・マスグレーヴは眉根をよせて自分の喉元に手をやった。



 ――夢のなかで、彼は何かに首を絞められていたのだった。

 うねうねと動く長い何か、湿って硬い何かに――



「今度も絞め殺されていたな」


 ……掠れた声で呟いたとき、部屋の入り口でガチャンと物の割れる音がした。


 ハッと見ると、クレーヴス執事が手にした盆を足元に取り落としているのだった。床でグラスが砕けている。


 クリス・マスグレーヴは激昂した。

「おいクレーヴス、何やっているんだよ! お前何年この屋敷の執事をやっているんだよ!?」

「申し訳ありません旦那様、すぐに片づけます」

 執事は口早に言いながら、砕けたグラスをそのままにして大股でベッドへと近づいてきた。


「それよりも旦那様、あなたさまの悪夢でございます」

「僕の悪夢? お前がそれを気にして何をしてくれるっていうのさ?」

「わたくしには何もできませんが――……旦那様は専門家に相談するべきです」

「専門家? 悪夢の専門家って何だよ?」

 クリス・マスグレーヴが掠れた声であざ笑うと、クレーヴス執事は真面目な顔で応えた。

「魔術師でございますよ! --旦那様が悪夢に魘されるようになったのは、旧いご本宅近くの森を売却して以降でございましょう?」

「それがどうしたのさ」

「実は、お買いくださったエルフィンストーン様から、再三ご忠告いただいていたのです。あの森は極めて古く魔術的な土地で、マスグレーヴご一族と関わる何らかの土地精霊(ゲニウス・ロキ)が棲まっているかもしれないと。そうした土地を迂闊に手放すと、ご当主やその周辺に何らかの障りが生じるかもしれないと」

「何だよその忠告。何者なのさ、そのエルフィンストーン様ってのは」

「イーブラクム近郊の準男爵様でございますよ。当代の御当主は――」


 

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