apron of a gun
大鳥母禮が誘拐され、無事戻って来たその日の夜に事件は起きた。
突然の大爆発に、目を覚ます新撰組の隊員。否、目を覚ましたのは彼らだけではない。
強いて言うなら、この東京に住む数多の人々が、否、更にそれ以上の人間の目が覚めようとしている。
その改革の先陣を切るのは、もちろん『生命の樹』なのだが、彼らもまた独断行動に走る。
『生命の樹』の幹部である根城桜。彼女がこの戦争の火蓋を切った。
そして奇しくも早まったこの戦争が、今幕を開ける。
夜も更け始める中、突如爆発が起こった。
「何の騒ぎだ!?」
先程まで対『生命の樹』の為の作戦を練っていた土方だけでなく、多くの隊員がこの大爆発で目を覚ました。
すぐに予備隊と第2部隊が爆心地の方へと向かうが、向かって10分で十分に行ける距離だというのに15分経っても先に出動した予備隊から応答がない。
というのがつい10分前。爆発から既に30数分が経過しているが、土方の行動は迅速かつ正しかったと言ってもいい。今回は彼の悪循環な生活がある意味救いだった。
それはともかく、土方が新撰組本部で考えている懸念はたった1つ。
恐らく第2部隊より先に向かった予備隊は全滅した。その一点のみは確か。
ほぼ内偵や現状報告を主とするのが予備隊であり、隠密行動にも優れている。それ故に偵察が第一なため、第1部隊から第10部隊の10つの実働部隊とは違い、前線を任せるのは難しい。
だからこそ注意は払った。だがそれでも襲撃してきた相手は、その目すら掻い潜って、自分の正体が割れる前にこちらを潰した事に他ならない。
苦渋を噛む中で、土方は次の指令を出す。
「全隊員出動準備!但し第4部隊、第8部隊、第1部隊は待機。各自連絡が取れる者は優先的に回せ!南條、現場からの連絡は?」
現時点で見えない敵に対抗出来るのは第3部隊まで。しかし第1部隊は壊滅に等しい為、待機の判断は正しい。
もう現場についての頼みの綱は、現在第2部隊しかないが、まだ全滅の報せがない以上、まだ現存なのは確か。
一方、敵の素姓を割り出すべく、土方はすぐに内線で情報課へと繋げば南條が応答するが、そこで意外な事実を知る。
「それが何の応答もない!今、近くの防犯カメラにクラッキングしたけど、防犯及び監視カメラは全て破壊されているんだ」
「何だと!?」
土方はこの爆破を知った時から、既に南條にはここ一帯の監視・防犯カメラへのアクセスの命令は出していた。
もし、この南條の報告が真実だとすれば、爆発が起きる前からここ一帯は敵の手中に落ちたという事になる。
そして何より、今こうして新撰組本部に襲撃を掛けてきた相手など1人しかいない。
「――ッ!」
甘かった。否、何故? 土方の知る限り、高杉は4日後にある有名な某日本政治家のアメリカへの出立に合わせて、朝方から仕掛けると、奴ならそうすると思った。
政治家の日本出立が全メディアで放送される中、堂々と日本中へと自分らの政府への叛意をしらしめる。だか待っても3日後だという考えがあったのに、それは呆気なく覆された。
なら仕掛けたのは高杉ではなく、『生命の樹』に所属する誰かの独断行動。しかしそれが分かっても、あの3人の内誰が仕掛けたのかを割り出せない時点で、新撰組は遅れを取った。
悔むのなら今じゃない――そう唇を噛みしめて、全隊へ向けて次の指令を下した。
「第3部隊、第5部隊。即刻現場へと急げ!まずは相手を特定しろ!」
◆
燃え盛る炎の中、根城は薄気味悪い笑みを浮かべながら根城は鼻歌を口ずさんでいた。まるでまだ消化不良だと言い切るかのように。
しかも損壊したパトカーを焚き火にし、数多の死体を椅子にして。
新撰組本部近辺を襲撃してから15分の間に、予備隊が全滅した。
先に新撰組本部から離れたビルから手榴弾を投げ、まず相手を誘う。これが先の爆発だ。
そして警察車両を装った予備隊が到着し、予備隊が状況確認をする際には、既に根城が現場で待ち伏せをしていた。
近辺にいた人間はもちろん殺され、予備隊が新撰組の実働部隊を呼び出す為の囮となる。しかしそれだけではなく、パトカーのエンジンを破壊し車両を爆破。
挙句には爆破に紛れて、予備隊を瞬く間に斬り殺す。正に短時間の犯行であった。すると、痺れを切らしたのか、チッと軽く舌打ちをする。
「……ったく、まだかよ。遅せぇな豚共」
予備隊は全員で10名。そう、たった10名
こんな一般の警察機構の名とパトカーを騙り、様子を見に来た臆病者を殺したいが為に、根城はこんな騒ぎを起こした訳ではない。
わざわざ母禮の誘拐に合わせて、自分の得物を隠せるロッカーを借りる手間さえ掛けて。消化不良どころの話ではない。
さぁ、とっとと来てくれ。退屈してるんだ、喉が渇くんだ、疼くんだ――女狼は心の底からこう強く訴えている。
先程まで苛立ちで舌打ちしたばかりなのに、この胸の高鳴りを感じれば感じる程、咥内から涎が垂れそうになるも、それさえ舌先で拭う。
そして今、彼女のすぐそこまで第2部隊という餌が迫ってきていた。
◆
「きゃぁああ!」という壮絶な悲鳴が、深夜の病院内に響く。
あまりの声の大きさと慌ただしさから目を覚ました遊佐は、病室の窓からその悪夢とも言える光景を目にしては目を見開く。
「あそこは新選組本部……!」
そう悟った時、今の爆発で混乱した患者の絶叫を他所に、廊下で看護師達の慌ただしい様子も混じる。
今遊佐の耳に入ったのは、都営新宿線近くで殺傷事件並びに爆破が起きたという事。故に負傷者達を受け入れるかどうかの判断が病室の外では繰り広げられている。
そしてそこで、自分が視認した位置と照らし合わせて、遊佐は今の現状を知る。
新撰組本部に突然の強襲――と言う事は、この事態は明らかに『生命の樹』が引き起こした事に相違ない。
(これは大人しくおねんねしてる場合じゃないだろうね……)
幸い繋がれたのは点滴だけだった為、それを雑に抜き取っては病室を後にする。
正直走る事さえ辛い今。何より点滴を無理に外した痛みも、尋常ではない。だがそれが一体何だというのか?
自分は昼間に既に自分の決意を、斎藤と母禮に口にした。更にはこの緊急事態。なら自分が駆け付けずに、誰があの新撰組を守るのか。
だから遊佐は走る。自身の成すべき事の為だけに。
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お久しぶりです、織坂一です。
今回から第3章開始となるのですが、先陣を切ったのは根城でした。
カクヨムでは既に公開されているので、少々ネタバレをしますが、これはあくまで新撰組対『生命の樹』(の幹部)の闘いです。
細かくはいいませんが、科学、魔術、武力、そしてリーダーである高杉と誰かがこの闘いの鍵を握ります。
正直この第3章はバトルバトルですし、第2章の様に今までの話をゴールに導く伏線はほぼありません。
ですがこの第3章でようやく第1章で回収しきれなかった伏線や、この物語の真実が明かされます。
ちなみに一部の内容は、第二部であるWill I change the Fate?~Requiem~にも繋がりますので、どうか今後ともよろしくお願い致します。




