apron of a gun-2
比企が率いる第2部隊は、土方の指令を受けて現場へと向かう。
本来なら予備隊の後部を即ける形だったが、爆心地周辺では同時に殺傷事件が発生した為、対処に追われた。
それも勿論、この爆発を起こした犯人だと言う事は自明。だからこそ比企は無断で、周囲の交通整理についての指示を出した。故に、予備隊と到着の遅れを取ったのだ。
しかしその指示は大きな間違いなのだと、現場を見ればそれが平然と知らされる。
死屍累々と積み上げられた死体を椅子に女が座っては、刀の手入れをしていた。
その状況を見て、この騒ぎの主犯なのが彼女なのは一目瞭然。卑怯ではあろうが、女――根城がまだ動かない事を好機とし、比企は指示を出す。
「第5部隊はこのまま引き返し、連絡に移れ。増援の指示があれば20分以内に現場へと引き返して、ここは第2部隊と第3――」
指示を他の隊員に出すその刹那、ガキィンッと刃と刃が交わる。
決して根城に聞こえない範疇で指示を出したが、それも結局の所気休め。
比企が指示を出している間に根城は距離を一気に詰め、そのまま比企へと刀を振りかざすが、比企もまたあの一瞬で刀を抜き、応戦する。
「へぇ、中々やるじゃねぇか。新選組は遊佐と斎藤の一点張りかと思ったが、そうでもないらしい訳か」
「まぁそういう事だから。甘く見てもらっちゃ困るよ」
同時に背後から斎藤が根城の身を横一文字に切り裂く。比企の指示が出る前に、斎藤は今完全に気配を絶って根城の背後を取ったが、それも気付かれる。
あっさりと回避され、第2部隊と第3部隊の隊員は一気に根城を中心に囲む。すると、根城は母禮の姿を見ては口を開く。
「なぁ、大鳥母禮。今すぐその傾国の女を渡せ、そうしたら引き返してやるよ」
「貴方は、さっきの……!」
明らかに先程とはまるきり違う口調にたじろぐ母禮。それも無理はない。何せ今母禮が根城に対して抱くのは、肉食獣に狙われた草食動物の恐怖そのもの。
高杉の部屋で初めて視線を合わせた時、母禮は分かっていた。彼女はそもそも種族が違うと。
姿形こそ人間だが、その嗅覚や実力はそれこそ遊佐や斎藤に並ぶのは一目で分かるし、現に斎藤の一撃さえ一瞬で見切った。
しかし彼女が、傾国の女を渡してそのまま退くとも思わない。否、寧ろこの大量虐殺は、新撰組が再起不能になるまで終わらない。
その恐怖を他所に、根城は母禮の元へと歩み寄る。そして涎を舐めまわす様な声音でこう呟く。
「ウチの頭領からの命令だ。私らはその傾国の女に用がある……アンタも聞いただろ?それに私ぁアンタを傷つける事はできねぇんだ」
ヒュンッ、というたった一振りが、宙を薙いだ刹那。根城を囲っていた大半の隊員は謎の一撃をまともに食らう。
ただ彼女は刀を旋回させただけ。なのに彼女は全方位に向かって斬撃を繰り出した。そう、このたったひと振りで。
正直今の攻撃を見切れた者はおらず、無事だった者は運で逃れたようなもの。
そして根城がまだ深く、歪んだ口角をその顔に刻んだとき、余波はこの場所をいとも容易く静謐さを満たした。
「……けれどもなァ」
繰り出す第2撃。間髪入れずそのまま刀をまた薙刀を振るうかの様に旋回させては、薙いだ。無論第一撃を食らい避けきれなかった者は、全員今の攻撃で五体をバラバラに切断される。
そして凶悪な女狼は哄笑を響かせながら、高らかに吼える様に言った。
「私がここで引くワケねぇけどなぁッ!ほら、ほら、ほらほらほらほらぁッ!もっと私を楽しませろ!でないと、ただの肉塊になっちまうぞぉッ!?」
響く死の宣告。それが告げられた瞬間、女狼の目は母禮に向けられた。
その瞳が意味する事は1つ。自分の大将が好む女は一体どんな血肉の味がするのかと。
さぞ、その小さな肉体には暢気で甘ったるい臓腑が詰められ、その血は益荒男を酔わす美酒なのだろう――その訴えに思わず母禮はぞっとした。
この時母禮へと向けられた一撃を斎藤が防ぎ、今度は比企が懐へと入った瞬間だった。
「テメェに用はねぇよ」
その言葉通り、比企に向けられたのは遠慮のない一閃と、怜悧な声音のみ。だがそこに根城は興味を抱いていなかった。
「がッ……!」
遠心力をたっぷりと使い、そのまま柄を比企の肋骨へと打ち込んでは、比企の身体は後方へとまるでドミノの様に呆気なく飛ばされた。
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