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アレから大変だった。薬師堂がオークジェネラルとミノタウロスを解体しているとそれを狙った魔物に襲われた。


けど、幻魔とミノリが簡単に撃退して辺りにはドロップアイテムやアイテムにならなった魔物の死体が転がっている。血の匂いに釣られて次々と魔物が集まってきたのだ。


「また来たよ?」


 薬師堂は肉を切り分けながら、森の奥を見る。


「えっ、また!? 解体中に追加注文が来るシステムなの!?」


 あたしが振り返る。木々の隙間から、何体もの魔物がこちらへ向かってくる。


「グルルル……」


「うわぁ……。お客さんの数が多い! って、歓迎してる場合じゃない!」


 さっきのワイルドウルフほどではない。


 でも、一体だけじゃない。


「幻魔、ミノリよろしく」

「任せろ」


「はーい!」


 二人が前に出る。


 ドォン!


 地面が揺れた。


 次の瞬間には、魔物の群れが吹き飛んでいた。


「……え?」


 あたしが目を瞬かせる。


「終わった?」

「うん。終わったよ?」


 薬師堂は何事もなかったように解体作業を続けている。


「いや、早すぎない!? 戦闘の報告が『終わった』の一言で済むの!?」


 地面を見る。


 そこには魔石や牙、爪、皮などのドロップアイテム。そして、まだアイテムへ変換されず、そのまま残っている魔物の死体まで転がっていた。


「……これ、全部どうするの?」


「あとでまとめて処理するよぉ」


「あとでって……」

「今は肉が先だからねぇ」


「肉優先なんだ……。魔石より? 素材より? 目の前の死体より!?」

「そりゃそうでしょ?」


 薬師堂は当然のように答えた。幻魔が倒した魔物を見下ろし、静かに頷く。


「肉がある」


 ミノリも嬉しそうに手を上げた。


「いっぱいある!」


「二人とも、戦果の数え方が完全に食材基準なんだけど!?」


 そんなやり取りをしている間にも魔物がよってくる。


 ドスッ。

 ドスッ。


 森の奥から、また別の音が聞こえてくる。


「……また?」


 あたしが身構える。


「まさか、また食材……じゃなくて魔物!?」


 けれど、今度現れた魔物は今までとは違っていた。


 大きな鳥型の魔物だった。


 身体はずんぐりとしていて、二本の脚で地面を踏みしめている。


 翼を広げ、鋭い嘴をこちらへ向けている。


 見た目は、地上で見たことのあるトードー鳥に少し似ている。


「鳥……?」


 あたしが呟く。


 薬師堂が目を細めた。


「ロックバードだねぇ」

「ロックバード?」


「うん。あれも深い階層でしか確認されてない魔物だよ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 幻魔の目が変わった。


「……鳥か」


 ミノリもロックバードをじっと見る。


「鳥……」


 二人の視線が、ロックバードに集中する。


「……何?」


 嫌な予感がした。


「その目、図鑑を見る目じゃなくて献立を見る目だよね!?」

「朱音ちゃんもたぶんもう分かってると思うけど…」


「うん」

「…鶏肉だねぇ」


「やっぱり!? 魔物の名前を聞いて最初に出てくる感想がそれ!?」


 幻魔が一歩前へ出る。


「倒す」


 ミノリも拳を握る。


「うちも!唐揚げ!」


「またそれ!? 倒す理由が完全に夕飯じゃん!」


 ロックバードが翼を広げる。


「グアアアアッ!」


 大きな嘴を開き、こちらへ突進してきた。


「遅い」


 幻魔が踏み込む。


 ドンッ!


 炎を纏った拳がロックバードの身体を捉えた。


 同時に、ミノリが地面へ手をつく。


「逃がさないよ! お肉、待っててね!」


 ズズズズッ!


 地面が盛り上がり、ロックバードの足元を一気に拘束する。


「グアッ!?」


「終わりだ」


 幻魔の炎が走った。


 ドォォォン!


 短い戦闘だった。


 ロックバードが地面に倒れる。


「……終わった」


 あたしが呆然と呟く。


「うん」


 ミノリが満面の笑みを浮かべる。


「鶏肉ゲット!」


「……」


 幻魔も満足そうに頷いた。


「これで鶏肉も確保できたな」


「二人とも、本当に食べ物のことしか考えてないじゃん……。魔物を倒した直後に『確保できた』って言うな!」


 薬師堂がロックバードへ近づく。


「じゃあ、これも解体かなぁ」


「待って。今から? この山みたいな死体を前にして、まだ解体を追加するの!?」


 そして、周囲を見渡す。


 オークジェネラル。


 ミノタウロス。


 ロックバード。


 さらに、二人が倒した魔物たち。


 ドロップアイテムと、まだ変換されていない死体が辺り一面に転がっている。


「……」


 あたしはその光景を見て、思わず遠い目になった。


「これ……55階層に戻るまでに、終わるの?」


「まあ、頑張れば?」

「薬師堂が頑張るんでしょ!?」


「そうだねぇ」


 薬師堂はのんびり笑った。


「せっかくだから、腕によりをかけないとねぇ」


「腕によりをかける前に、まず片付けて! あと二人も、食べることしか考えてないなら手伝って!」


 幻魔が真剣な顔で頷く。


「分かった。肉を運ぶ」

「そこじゃない! 素材全般!」


 ミノリも元気よく手を上げる。


「うちはお肉を数える!」


「それも手伝いじゃない!」


 その言葉に。


 あたしのお腹が、ぐぅぅぅ……と鳴った。


「…………」


 幻魔とミノリがこちらを見る。


 薬師堂も見る。


「……朱音ちゃん」


「……何」


「お腹空いた?」


「…………うん」


 恥ずかしそうに頷く。いや、ホントに恥ずい。


 ミノリの目が輝いた。


「じゃあ、早く解体しよ!で、拠点戻ってご飯!」


「任せてぇ〜」


「待って待って! あたしが空腹を認めた瞬間、調理班が動き出したんだけど!?」


 薬師堂は笑った。


「じゃあ、なおさら頑張らないとねぇ」


「だからって、食欲を原動力に全員が加速しないでよぉ!」




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