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「…………」
落ち着け。あたしは大丈夫、大丈夫。
深呼吸をしてゆっくりと目を開ける。
目の前に広がっているのは巨大な森林。
木々は異常なほど高く、周囲には濃密な魔力が漂っている。
「…………」
振り返り階段の側面に刻まれた階層表示に目を向ける。
五十八階層
朱音「……五十八階層ぉぉぉ!?」
森にあたしの叫び声が響き渡る。
「待て待て待て!!?大手クランや探索パーティーでも三十八階層より下いけてないのに!?五十八!?」
返事はない。
「ここ日本のダンジョンだよな!?」
もちろん返事はない。
「初探索なんだけど!?どーしよ!?も~~!!」
パニックになっていると近くの茂みが動く。
……き、気のせいだよね?
ガサッ。
何かが動いた。
「……いや」
ガサッ。
「いやいやいや」
ガサァッ!!
巨大な魔物が木々の間から姿を現す。
「でっか……!」
咄嗟に拳を構える。だがーーー魔物の数が一匹ではない。
「……無理じゃね?」
顔から血の気が引いていくのがわかる。
初探索で今日ダンジョンデビューしたばかり。魔物との戦闘経験0。
武器は拳。
しかも相手は、見るからに自分より強そうな魔物が複数。
「いや、無理無理無理!! こんなの聞いてないって!!」
その場に座り込んで頭を抱え込んだその瞬間、魔物の背後から炎が走った。
ゴォン!!
魔物たちの前に、巨大な炎の壁が生まれた。
「グルァッ!?」
魔物たちが後退する。
その炎の向こう側にある森の中から、一人の男が歩いてくる。
日焼けした肌に黒髪。
魔物の前に炎の壁が生まれると、茂みの中から一人の男性が歩いてくる。
大柄な身体。
革鎧に身を包み、まるでこの場所を散歩するような足取りだ。
男は魔物たちを一瞥する。
「……あん?」
そして、あたしに気づいた。
少し考えるように黙って見つめてくる。
「……あー」
何かに気づいたように呟く。
「アレか?」
男は面倒そうに頭を掻いた。
「チッ……めんどくせぇな」
「…………」
あたしは固まった。
いや、待って。
今この人。
五十八階層を普通に歩いてなかった?
「……こ、怖くないの?」
思わず口から出た。男は怪訝そうに眉を寄せる。
「怖い?」
「いや、だって……」
その向こうには、さっきまであたしを襲おうとしていた魔物の群れがいる。
なのにこの人は、まるで日常の風景でも見ているような顔をしている。
男はため息をついた。
「お前、ここがどこだかわかってんのか?」
「だ、ダンジョンの五十八階層……」
「そうだ」
「…………」
「なら、そこで突っ立ってる理由はなんだ?」
「帰れないからだよ!!?」
思わず叫ぶ。男は少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
そして、魔物たちへ視線を戻す。
「だったら、まずこいつら片付けるぞ」
片手を魔物に向けると、魔物の群れを一瞬で消し炭にする。すると、地面にはドロップアイテムが現れる。
「す…スゴっ…」
「チッ……んだ、ハズレかよ。食い物じゃねぇ……」
幻魔がドロップアイテムを拾い上げる。
「…………」
あたしは、その光景を呆然と眺めていた。
いや。
待って。
今、この人。
魔物の群れを一瞬で焼き払ったよね?
しかも「食い物じゃねぇ……」って。
「……なんなんだ、この人……」
思わず呟いた、その時。
森の奥から、別の声が聞こえてきた。
「幻魔~~!」
「……ん?」
ガサガサッ。
茂みをかき分けて、一人の少女が姿を現す。
「なんかすごい炎あがってたけど…?」
明るい声とともに現れたのは、大柄な少女だった。
「…………」
あたしは固まる。
デカい。
普通にデカい。
この人も大柄だと思っていたけど、この子もかなりの身長がある。
その後ろから、白髪の青年がゆっくりと歩いてくる。
「幻魔」
青年は炎の跡を見渡す。
そして、ため息をついた。
「あんま派手に火炎魔法放つなよ?」
「…………」
そっぽを向く男。
「まーた森林燃やすよ?」
「燃えてねぇだろ」
「今回はね?」
「今回は!?」
あたしが思わず反応すると、青年がこちらを見る。
「ん?」
少しだけ目を細める。
「……誰?」
男が答える。
「さっき拾った」
「拾ったって言い方やめろ!!」
思わずツッコむ。
青年は少し笑った。
「なるほど。迷子かぁ」
「迷子じゃねぇ!!」
「じゃあ遭難?」
「もっと悪いわ!!」
少女があたしの横まで歩いてくる。
「こんにちは! うちは牛巻ミノリ!ミノリって呼んでね?」
「鬼塚朱音……」
「朱音ちゃんかぁ!」
ミノリはニコニコしながらあたしを見る。
そして、じっと見つめてくる。
「……な、なに?」
「ちっちゃいねぇ」
「は?」
「うちよりだいぶ小さい!」
「そりゃそうだろ!」
思わず見上げる。
「……デカ」
「ん?」
あたし、普通に見上げてんだけど!?
「うち、205センチあるから!」
「205!?デカッ!?」
黒髪ロングにビキニアーマー姿。下はデニムのショートズボンを入っているが露出が多い装備。
女のあたしでも目を引く爆乳。
「あらら…なるほどねぇ。転移魔法陣に飛ばされた口?」
白髪の青年がしゃがみ込んであたしの顔を覗き込む。
「俺は薬師堂仁。もう一人は神宮寺幻魔」
背後で腕組みをしてイライラしている幻魔を指差す。
「んー…確認だけど、転移魔法陣の罠に引っかかって五十八階層に飛ばされた感じ?」
困ったように尋ねてくる。あたしは首を縦に振った。
「とりあえずは落ち着いて話そうか?」
すぐ近くの階層に向かう三人の後に続いた。これで地上に帰る!そう思った。
「まずゴメンけど、まだ地上には帰れないよ?朱音ちゃん」
けど、告げられた言葉はその希望を打ち砕かれた。




