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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第8話:その難攻不落の要塞、一週間で『倒産』させてみせましょう

「……暖房効率が悪すぎますわ。この馬車の断熱材、ケチりましたね?」


 帝都から北へ三日。

 馬車の窓を叩く風は、もはや刃物のような鋭さを帯びている。

 私は膝の上で、アイゼン要塞の過去十年の決算書をめくりながら、向かいに座るカシアンに冷たい視線を向けた。


「帝国の軍用馬車だ。快適さよりも堅牢さを優先している」

「堅牢さと燃費の悪さはイコールではありませんわ。カシアン卿、この移動だけで金貨三枚分の魔力を無駄にしています。……積もり積もれば、国が傾く額です」


 カシアンは呆れたように肩をすくめ、懐からあの『壊れた懐中時計』を取り出した。

 カチ、カチ……。

 歪なリズムを刻む時計を見つめる彼の横顔は、帝都にいた時よりも一段と険しい。


「……見えてきたぞ。あれが帝国の北の盾、アイゼン要塞だ」


 窓の外に、巨大な黒い影がそびえ立っていた。

 断崖絶壁に張り付くように築かれたその要塞は、魔物の侵攻を阻む鉄壁の守り。だが、私にとっては、ただの『巨大な赤字垂れ流し機』にしか見えない。


 馬車が要塞の重厚な門をくぐると、そこには荒々しい兵士たちの怒号と、鼻を突く家畜の匂いが満ちていた。

 

「おいおい、財務卿様がお連れになったのは、戦場の花嫁か? それとも新しい事務員か?」


 出迎えたのは、全身に傷跡を持つ巨漢の男――アイゼン要塞司令官、ギュンター将軍だった。

 彼は私の細い腕をあざ笑うように眺め、地面に唾を吐く。


「カシアン卿。陛下からは『支援』を寄越すと聞いていたが、こんな眼鏡の小娘一人で、このアイゼンの極寒と飢えが救えるとでも?」


「救いに来たのではありませんわ、将軍」


 私は馬車を降り、積もった雪を避けることもなく彼と正面から向き合った。

 寒さで指先が凍りそうだが、脳内の計算機は熱を帯びて回転している。


「私は、この要塞を『倒産』させに来たのです」


 一瞬、その場の空気が凍りついた。

 ギュンターの顔が怒りで赤黒く染まり、周囲の兵士たちが武器を握り直す。


「……倒産だと? 貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか! ここが落ちれば、帝国は魔物の海に沈むのだぞ!」


「軍事的な価値は否定しません。ですが、経営的には既に破綻しています」

 私は、手に持っていた決算書の一枚を、ギュンターの胸に叩きつけた。


「項目一。兵士たちに支給されている『防寒用の魔石』。これ、市場価格の五倍で仕入れていますわね? 納入業者は王国の『ロス家』。……私の実家の分家ですわ。なるほど、私が追放された後、こちらに不良在庫を押し付けたわけですか」


「な……五倍……!?」


「項目二。要塞の食料備蓄。地下の湿気が多すぎて、毎月二割がカビて廃棄されている。……保管庫の除湿魔法陣、十年前からメンテナンス費だけ計上されて、実際には稼働していません。中抜きされた予算は、どこへ消えました?」


 ギュンターの額から、冷たい汗が流れ落ちる。

 私は、彼の背後に並ぶ兵士たち――痩せこけ、震えている彼らへと視線を移した。


「将軍。あなたたちが命をかけて守っているのは、帝国ではなく、一部の腐敗した業者と官吏の『利権』ですわ。……そんなものに支払う予算、私の帳簿には一ペニーもございません」


「……っ、ふざけるな! 理屈で腹が膨れるか! 今すぐ食料と魔石を寄越せ!」


「お断りします」

 私は、カシアンが私のために用意してくれた『皇帝の全権委任状』を高く掲げた。


「本日、この瞬間をもって、アイゼン要塞の全ての財政権、および人事権を私が接収します。……逆らう者は、即刻『給与永久停止』とさせていただきますわ」


 沈黙。

 兵士たちの間に、困惑と、そしてかすかな「希望」が混じった動揺が広がる。

 カシアンが私の隣に立ち、冷酷な笑みを浮かべて剣の柄に手をかけた。


「……聞いたか。これからは、このエレナ嬢の言葉が、陛下の言葉だ。……不満がある者は、私の剣と帳簿、どちらに裁かれたいか選ぶがいい」


 ギュンターは、悔しげに拳を握り締めながらも、王族の血を引くカシアンの威圧感に屈し、膝をついた。


「……勝手にしろ。だが、一週間だ。一週間以内に改善が見られなければ、俺たちはこの門を捨てて撤退する」


「一週間も必要ありませんわ」

 私は眼鏡を押し上げ、要塞の中央にある、最も無駄な魔力を消費している「装飾的な尖塔」を指差した。


「まず、あの塔を解体して、魔導触媒を全て現金化します。……それから、兵士たちの夕食メニューを変更しますわ。……コストは半分、カロリーは二倍。……数字は嘘をつきませんもの」


 故国の王太子が、今頃「エレナがいなくなって、魔法の維持費が浮いた」と贅沢な晩餐を楽しんでいる間に。

 私はこの極寒の地で、世界最強の『暴力けいざい』を再構築する。


「……さて。ハンス。計算機とインクの用意を。徹夜になりますわよ」


 私のペン先が、アイゼンの冷たい空気を切り裂いた。

 ここが、王国を買い叩くための「中央銀行」に変わるまで、あと六日。

お読みいただきありがとうございます!

「アイゼン要塞」に乗り込んだエレナ。武骨な将軍を相手にしても、彼女の「数字による断罪」は一切容赦ありません。

「倒産させに来た」という前代未聞の宣言、そして実家の分家による不正を暴く容赦のなさ。

エレナがこれからどうやって「兵士の心」と「帳簿の赤字」を掴んでいくのか、ご期待ください。


次回、第9話「数字は裏切らない。裏切るのはいつも、数字を読めぬ人間だ」。

ついにエレナ流・要塞改革が本格始動します!


もし「エレナの不敵な態度にスカッとした!」「カシアン様との連携がカッコいい!」と思ってくださったら、

ぜひ下の【評価★★★★★】と【ブックマーク】をお願いいたします!

あなたの応援が、アイゼンの兵士たちの明日の食事(文字数)を増やします!

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