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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第26話:王太子ジュリアンの再利用:ゴミを肥料に変える方法

「――泣いている暇があるなら、その『時計』の出力を上げなさい。カシアン卿、あなたの過去を買い取った私の判断を、一秒で後悔させないことね」


 崩落の粉塵が舞う地下室。

 私は、カシアンから奪い取った懐中時計の裏蓋を剥き出しにし、自分の銀のペンをその中枢回路へ直接突き立てた。


「エレナ……っ、すまない。だが、それはあまりにも――」


「黙りなさい。監査中につき、私語はコストの無駄です」


 カシアンの時計から溢れ出す、青い魔力の奔流。

 それはかつて、私の母が命を賭して守り、この世界の『隠し口座』を監視するために遺した端末そのもの。

 私はその奔流を、自分の脳内に展開された「聖都全域の魔導回路図」へと強制的にバイパス(迂回)させた。


 視界が、黄金色の数式で埋め尽くされる。

 セシル枢機卿が閉ざした隔壁。

 聖都の守護結界。

 それら全てを構成する『マナの収支』が、今、私のペン先一つで書き換えられていく。


「――読み込み、完了。セシル枢機卿、あなたのパスワードは『Eternal_Glory(永遠の栄光)』ですか。……傲慢な割に、セキュリティ意識が低すぎますわね。一括削除デリートさせていただきます」


 パチン、と指を鳴らす。


 **ズゥゥゥンッ!**


 地下室を埋めていた沈黙が、重厚な機械音によって打ち破られた。

 閉ざされていた隔壁が、悲鳴を上げるように逆回転し、こじ開けられる。

 それだけではない。

 聖都の象徴である大聖堂の鐘が、本来の時刻を無視して、狂ったように鳴り響き始めた。


「……何をした?」

 カシアンが、唖然として周囲を見渡す。


「聖都の管理システムを乗っ取りました(オーバーライド)。現在、この街の魔導灯、噴水、挙句は教会の寄付金回収ボックスの鍵に至るまで、全て私の管理下にあります。……ハンス、聞こえるかしら?」


『お、お嬢様! 地上は大混乱です! 教会の金庫が勝手に開き、聖騎士たちの装備が次々と『所有権なし』として強制解除されています!』


 通信機越しに、ハンスの興奮した声が届く。


「よろしい。教会の資産を全て『一時凍結』状態に置きなさい。……さて、カシアン卿。地上へ戻りますわよ。……逃げ出したセシル枢機卿に、不当利得の返還請求を叩きつけなければ」


---


 地上へ戻った私たちが目にしたのは、阿鼻叫喚の図だった。

 

 白亜の街並みは、私のハッキングによって魔力が乱れ、点滅を繰り返している。

 その混乱の中心――大聖堂の前広場に、セシル枢機卿が立っていた。

 

 だが、彼の隣には、信じがたい「異物」が鎮座していた。


「……ア、ア、……エレ、ナ……」


 それは、巨大な魔力抽出槽の中に押し込められた、肉塊のような存在。

 管に繋がれ、瞳からは理性の光が消え、ただただ苦痛に顔を歪ませている男。


「……ジュリアン・フォン・ロスタンド。……ゴミ箱(収容所)に捨てたはずの不良債権が、なぜここに?」


 私は、眉一つ動かさずにその惨めな姿を査定した。

 セシルが、狂気に満ちた笑みを浮かべてこちらを振り返る。


「素晴らしいでしょう、エレナ殿! 君がハッキングでシステムの均衡を崩したおかげで、この『王室の血』を持つ器が、無限の魔力触媒(バイオ燃料)として覚醒した! 彼はもう人間ではない。……世界を再構築するための、高効率な『電池』だ!」


「……電池、ですか」


 私は一歩、前へ出た。

 カシアンが剣を引き抜き、私の前に立ち塞がろうとするが、それを手で制する。


「アァァ……エレナ……殺ス……貴様、サエ……イナケレバ……!」


 抽出槽の中で、ジュリアンが咆哮する。

 彼から溢れ出す黒い魔力が、聖都の美しい建物を次々と侵食し、灰に変えていく。

 セシルの狙いは明白だ。

 システムを奪われたのなら、システムそのものを物理的に破壊し、ジュリアンという「暴走する動力源」で世界を力ずくで書き換えるつもりなのだ。


「セシル枢機卿。……あなたは、本当に『再利用』という言葉の意味を理解していないようですね」


「何だと?」


「そのジュリアンという素材。……確かに王族の血という希少価値はありますが、今のままでは維持費ばかりかかる『環境汚染物質』に過ぎません。……ですが、私の帳簿を通せば――」


 私は、自分の懐中時計を掲げた。

 

「――彼は、荒れ果てた王国跡地を再生させるための、最高品質の『肥料マナ・コンポスト』に変換可能ですわ」


「肥料だと!? この私を……王である私を、土の肥やしにすると言うのかぁぁ!」


 ジュリアンが絶叫し、巨大な魔力の腕を私に向けて振り下ろす。

 

「カシアン卿、投資を実行します。……彼の『負のエネルギー』を、全て北方塩湖の『資産形成』へ強制転送なさい!」


「……承知した! 我が時計の針よ、世界の『ツケ』をこいつに払わせろ!」


 カシアンが掲げた時計と、私の銀のペンが共鳴する。

 ジュリアンが放った破壊の閃光が、私に届く直前で黄金の数式へと分解され、地脈を通じて遥か遠く――帝国の塩湖へと吸い込まれていく。


 **「ガ、ア、アァァァァァ……ッ!!!」**


 魔力を吸い尽くされ、ジュリアンの肉体が急激に干からびていく。

 

「……。そんな……、私の、私の最終兵器が……ただの送電線に……!?」


 膝をつくセシル枢機卿。

 私は、動かなくなったジュリアンを一瞥し、冷たく言い放った。


「清算完了です。……ジュリアン様、あなたは死してなお、私の資産運用に貢献できる。……これ以上の名誉な『再雇用』はありませんわよ?」


 聖都を包んでいた黒い霧が晴れ、夜明けの光が差し込む。

 

 だが、私の計算はまだ終わっていない。

 セシルの背後――崩れ落ちた大聖堂の奥に、本物の『バグの源流』が姿を現そうとしていた。


「……さて。神様。……不当に隠匿した『世界の端数』、今すぐ一括返済していただきましょうか」


 私の眼鏡の奥で、世界の真理を記した「最終帳簿」が、音を立てて開かれた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

王太子ジュリアン、まさかの「肥料(燃料)」としての再登場&再退場。

かつて自分を捨てた男を、今度は文字通り「資源」として使い倒すエレナの徹底した合理主義に、カタルシスを感じていただけたでしょうか。


さて、次回。第2部・聖都編、ついに最終決戦。

セシル枢機卿が命を賭けて隠し続けた、この世界の「本当の管理者」が姿を現します。

エレナのペン先は、ついに「神」という名の巨大な不正を突き刺すことができるのか。


第27話「聖都への宣戦布告:これより、神の資産を査定します」


「ジュリアンの末路が最高すぎる!」「エレナとカシアンの共闘がアツい!」

そう思っていただけましたら、ぜひ下の【★★★★★】と【ブックマーク】をお願いいたします!

皆様の評価が、エレナの「神殺しの監査料」になりますわ。

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