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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第23話:帝国中央銀行設立:金貨の重さを書き換えます

「――ハンス。その金貨の山に、防錆剤をかける必要はありませんわ。どうせ数時間後には、ただの『インゴット』に姿を変えますから」


 エドワードが去った後の静寂を、私の事務的な指示が切り裂いた。

 官邸の広間に積み上げられた、聖教会の刻印入り金貨。かつては大陸中で『絶対の価値』を誇ったそれが、今はただの、場所を取る黄色い金属に見える。


「お嬢様、よろしいのですか? これら全てを回収し、潰してしまっては、教皇庁との対立は修復不可能になりますが」


「修復? ハンス。壊れた機械を直すコストより、新しいシステムを構築するコストの方が安い。……それが私の判断です」


 私は眼鏡のブリッジを押し上げ、傍らに立つカシアンを見上げた。

 彼は、手にした『エレナ紙幣』の一枚を、感嘆したように光に透かしている。


「……金貨を鋳潰して、帝国の『金地金ゴールド・バー』として管理する。そして、その保有量を裏付けに、この紙切れに価値を持たせる。……エレナ、君がやろうとしているのは、教会の特権である『通貨発行権』の強奪だぞ」


「強奪ではありませんわ。……より効率的な運用主への『譲渡』です。カシアン卿、本日正午をもって、帝国中央銀行を設立します。……初代総裁は、私が務めさせていただきますわ」


 ◇


 正午。帝都中央広場。

 そこには、かつてない熱量で群衆が押し寄せていた。

 

 演壇に立った私の前には、巨大な鋳造炉が据えられている。

 

「帝都の皆さん、聞きなさい!」


 私の声が、拡声の魔導具を通じて空に響く。


「教会は言いました。破門された帝国に、価値はないと。……ですが、価値を決めるのは神ではなく、我々の『帳簿』です。……今日、この瞬間をもって、帝国は聖教会の金融ネットワークから離脱します!」


 ハンスが合図を出す。

 重い荷台が傾き、数千枚の教会金貨が、赤く燃え盛る炉の中へ、滝のように流れ込んだ。

 

 ガシャン、ガシャンという、金属の断末魔のような音が響く。


「教会の金貨は、その重さ以上の価値を持たない『ただの在庫』となりました。……中央銀行は、それらを全て回収し、純粋な金地金として保管します。……そして、皆さんの手元にある『エレナ紙幣』こそが、帝国の未来を買う唯一のチケットです!」


 群衆から、怒号のような歓声が上がった。

 

 広場の隅では、商人たちが慌てて教会の金貨を差し出し、新紙幣への両替に列をなしている。

 価値の転換。

 重たい金貨を持って歩く「物流の非効率」が、私のサイン一つで解決されていく。

 

 その光景を、演壇の影から見守る一人の少女がいた。


「……ふふ。お姉様、本当にかっこいいわ。神様のポケットから、小銭を全部奪っちゃうなんて」


 ミレアだ。

 彼女は聖女の法衣を脱ぎ捨て、洗練された帝国の令嬢服に身を包んでいる。


「ミレア。後のことは任せましたわよ。……私が聖都へ向かっている間、この中央銀行の『監査役』として、不届きな横領がないか目を光らせておきなさい」


「任せて、お姉様。……数字を誤魔化す奴は、私の『祈り』という名の毒舌で、精神コストをズタズタにしてあげるから」


 ミレアは可愛らしくウインクして、私の手を取った。

 姉妹の絆。……いいえ、私たちは今や、世界を買い叩くための「共犯者」だ。


 ◇


 数時間後。聖都へと向かう隠密の魔導馬車。

 

 車内は、私とカシアンの二人きりだった。

 揺れる車輪の音に合わせて、カシアンが懐から時計を取り出す。


「……カチ、カチ、カチ……」


 時計の秒針は、今やかつてないほど滑らかに、そして速く動いていた。


「エレナ。……エドワードの言葉が気になる。……世界の端数の答えが、教会の金庫にある、か」


「ええ。……マナの収支が合わない。それは、誰かが『複式簿記』の外側に、巨大な隠し口座を持っていることを意味します。……セシル枢機卿が、なぜあれほどまでに魔力塩を没収したがったのか。……その理由も、そこにあるはずですわ」


 カシアンが、私の隣に座り直し、その大きな手で私の肩を抱き寄せた。

 彼の熱が伝わってくる。


「聖都は、帝都とは比べものにならないほど、教会の『目』が張り巡らされている。……いいか、エレナ。君は私の最高資産だ。……一分たりとも、私の視界から消えるなよ」


「独占欲は、時に判断を誤らせますわ。……ですが、カシアン卿」


 私は彼の胸元に、自分の銀のペンをそっと添えた。


「今回の調査。……もし教会の金庫を暴くことができれば、その報酬として……あなたのその時計の『修理費』、私が全額立て替えて差し上げますわ。……あなたの過去の赤字、いつまでも放置しておくのは私の美学に反しますから」


 カシアンが、驚いたように目を見開き、そして低く笑った。


「……高くつくぞ、エレナ。……私の過去は、一兆ゴルドでも買い取れないほど重い」


「ご心配なく。……私の帳簿には、上限リミットなどございません」


 馬車は、静寂の森を抜け、教会の聖域へと足を踏み入れた。

 

 窓の外。

 地平線の先に、黄金色に輝く聖教会の総本山――聖都が見えてくる。

 

 私の眼鏡の奥で、その巨大な都が、巨大な「不正融資の現場」へと塗り替えられていく。

 

 清算の第三幕。

 神様。……あなたの隠し持っている『裏帳簿』、今すぐ監査させていただきますわ。

お読みいただきありがとうございます!

帝国中央銀行の設立により、教会の経済支配を完全に終わらせた第23話。

ミレアに帝都の守りを任せ、エレナはいよいよカシアンと共に宿敵・セシル枢機卿の本拠地へ乗り込みます。


「一兆ゴルドでも買い取れない過去」を持つカシアン。

エレナのペンは、彼の心の傷さえも「清算」できるのでしょうか。

次話、聖都潜入。

そこには、エドワードさえも知らなかった「世界の真理」という名のバグが潜んでいました。


第24話「枢機卿の誘惑:君の帳簿を、神に捧げないか?」


「エレナとカシアンの距離感にドキドキする!」「聖都編の展開が楽しみ!」

そう思っていただけましたら、ぜひ下の【★★★★★】と【ブックマーク】をお願いいたします。

皆様の応援が、エレナの「聖都潜入スキル」を底上げしますわ!

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