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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第21話:教会の不渡り:奇跡に値段をつけた女

「――その金貨、今はただの『重たい金属』ですわ。カシアン卿、受け取りを拒否しなさい」


 帝都最大の市場、クロイツ広場。

 怒号と悲鳴が渦巻く中、私は特設された両替所の演壇に立っていた。

 

 広場を埋め尽くす民衆の手には、聖教会の刻印が入った金貨が握られている。だが、市場の商人たちは首を横に振るばかりだ。教会の絶縁宣言インターディクトにより、「教会の金貨での取引」を続けた商会は、聖都からの物資供給を永久に絶たれる。そう脅されているのだ。


「エレナ! だが、この金貨が使えなければ帝都の経済は一時間で死ぬぞ!」

 カシアンが焦燥を隠さず、私の隣で低く唸る。彼の懐では、あの時計が狂ったような速度で時を刻んでいる。


「死にませんわ。……『古い血液』を捨て、『新しい血液』を注入するだけです」


 私はハンスに合図を送った。

 背後の大型馬車の荷台が開き、純白の輝き――北方塩湖で精製されたばかりの「魔力塩」が、積み上げられた状態で姿を現す。


「皆さん、聞きなさい!」

 私の声が、魔導拡声器を通じて広場に響き渡る。


「今日、この瞬間から。教会の金貨は、帝都においてその価値を失いました。……代わりに、これを使いなさい」


 私は、手にした一枚の「紙切れ」を高く掲げた。

 それは、帝国の紋章と私のサインが記された、透かし入りの新紙幣。


「これは『魔力塩引換証』。通称『エレナ紙幣』です。……この紙一枚につき、規定量の魔力塩、あるいはそれと同価値のパンと交換することを、私が、そしてヴァロア帝国が『保証』します」


「紙、だと!? そんな薄っぺらいものが、神の金貨の代わりになるかよ!」

 野次が飛ぶ。当然の反応だ。


「神の金貨で、今、パンが買えますか?」

 私は冷たく問い返した。


「教会の金貨は、彼らの『気分』で価値が変わる不良債権ですわ。ですが、私の紙幣は違います。……これは、帝都を照らす『光』そのものと直結している。……命と光。どちらに価値があるか、その胃袋で計算なさい」


 静寂が訪れる。

 その時、市場の隅で、昨日私がパン一つで雇ったガストン団長と旧騎士団たちが、威圧的な音を立てて剣を鞘に納めた。


「……ガストン団長。配給の開始を。……ただし、支払いは『エレナ紙幣』のみで受け付けなさい」


「はっ……承知した!」


 ガストンが叫ぶ。同時に、ハンスが用意していた臨時の両替所が稼働した。

 金貨を差し出し、当惑しながら「紙」を受け取る民衆。

 彼らがその紙を持って食料品店へ向かう。店主は、私の背後に積まれた「魔力塩」という実物資産アセットを確認し、頷いた。


 紙が、パンに変わる。

 パンが、子供たちの口に入る。

 その光景が連鎖した瞬間、広場の空気は「絶望」から「熱狂」へと書き換えられた。


「……教会の金貨なんていらねえ! エレナ様の紙の方が、よっぽど腹が膨れるぞ!」


 市場の「信用」が、教会から私へと移転した瞬間だった。


 ◇


「……見事だな。奇跡に値段をつけ、それを紙切れで管理するとは」


 夕暮れ。官邸の執務室で、カシアンが手元の新紙幣をまじまじと見つめていた。

 

「カシアン卿。これで教会の『絶縁』は、ただの独り言になりました。……帝都の経済は、教会のネットワークから完全に独立し、私の帳簿の下で再編されます」


「だが、セシル枢機卿がこれで引き下がるとは思えん。奴は、教会の不渡りを認めるような男ではないぞ」


「ええ。ですから、次の一手は既に打ってありますわ」


 私が手帳を閉じようとした、その時。

 

 ハンスが、扉も叩かずに駆け込んできた。

「……お嬢様。……『不測の事態』です」


 有能な彼の声が、僅かに震えている。

「……教会の使節団の中に、一人、紛れ込んでいた者がおります。……エレナ様の過去、ロスタンド家における『真の財務記録』を知る者が」


 私は眼鏡を直し、窓の外を見下ろした。

 官邸の門前。

 教会の銀の法衣を纏いながらも、その目には隠しきれない「憎悪」と「計算」を宿した一人の男が立っていた。


「……まさか。彼は、王国が崩壊した際に、全ての負債と共に消えたはずですが」


「――お久しぶりですね、お姉様」


 階下から響いてきたのは、聞き覚えのある、しかし毒を孕んだ少年の声。

 ロスタンド公爵家の嫡男であり、私が「無能」として切り捨てたはずの義弟――エドワード。


 彼は教会の使者として、最悪の「請求書」を携えて戻ってきたのだ。


「……計算違いですね。……死体ゼロだと思っていた資産が、ゾンビのように立ち上がってくるとは」


 私は、銀の懐中時計をパチンと閉じた。

 

 カシアンの時計の針が、さらに速度を上げる。

 清算の舞台は、家族の情愛という名の、最も泥沼の戦いへと引きずり込まれようとしていた。

お読みいただきありがとうございます!

新通貨「エレナ紙幣」で教会の経済封鎖を無効化した第21話。

パンという実益を前に、神の権威が紙屑(金貨)に負けるカタルシス、お楽しみいただけたでしょうか。


さて、次回。

現れたのは、エレナが王国時代に「経営判断」として切り捨てた義弟、エドワード。

彼は教会の後ろ盾を得て、エレナの「帳簿の脆弱性」を突いてきます。

家族という名の「不良債権」との、骨肉の監査バトルが始まります!


第22話「身内の赤字は、一族の恥。……いいえ、ただの『損切り対象』です」


「新通貨の展開が熱い!」「義弟の登場で不穏な空気が……!」

そう思っていただけましたら、ぜひ下の【★★★★★】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします!

皆様の評価が、エレナの「新通貨」の価値をさらに高めますわ。

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