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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第17話:社交界の評価額:私はただの『亡命令嬢』ではありません

「――『神の預かり物』、ですか。枢機卿、その言葉の定義を明確にしていただけますか?」


 黄金宮の空気が、一瞬で氷点下まで下がった。

 華やかな舞踏会の喧騒は霧散し、貴族たちは息を潜めて、銀髪の枢機卿セシルと私を見つめている。

 

 セシル枢機卿。

 若くして聖教会の財政と教義を司る彼は、慈悲深い微笑みを浮かべながらも、その瞳は計算し尽くされた猛毒を宿している。


「言葉の通りですよ、エレナ殿。この世の全ての魔力は主のもの。それを人が勝手に精製し、市場に流す行為は『資産の横領』に当たります。……神の法は、人の法に優先されるのです」


 セシルが一歩、私との距離を詰める。

 彼から漂うのは、清廉な沈香の香りと、隠しきれない「支配」の重圧。

 

 だが、私の脳内計算機は、彼の法衣の刺繍に使われた金糸の量と、教会の現在のキャッシュフローの不透明さを瞬時に弾き出した。


「神の法、ね」

 横から冷ややかな声が割って入る。

 カシアンが私の肩に手を置き、セシルを射抜くような視線で睨みつけた。


「枢機卿。君たちの教会の運営費、その三割は帝国の寄付で賄われているはずだ。……出資者に無断で、帝国内の資源マナに所有権を主張する。これは明らかな『契約違反』だと思うが?」


「カシアン卿。金貨の計算と魂の救済を混同してはいけません。……さて、エレナ殿」


 セシルはカシアンを無視し、私にだけその冷たい手を差し出した。


「その『魔力塩』の精製法を教会に譲渡し、聖女ミレア殿と共に聖都へお越しなさい。……そうすれば、あなたが王国で犯した『国家破産』の罪も、神の名において特赦いたしましょう」


 周囲の貴族たちがざわめく。

 特赦。それは逃亡者である私にとって、法的な平穏を約束する甘い蜜に見えるだろう。

 

 しかし。

 私は、眼鏡を指先で押し上げ、彼の差し出した手を「ゼロ価値」のゴミとして一瞥した。


「枢機卿。……私に特赦をちらつかせるのは、逆効果ですわ」


「ほう?」


「特赦という名の『債務免除』は、往々にして、より巨大な『見えない債務』を背負わせるための罠。……あなたが求めているのは私の救済ではなく、魔力塩という次世代エネルギーの『独占権』……。会計用語で言えば、市場の完全独占モノポリーによる価格支配ですわね」


 私は、銀の手帳から一枚のカードを取り出した。

 そこには、昨今の聖教会が各地で買い占めている「旧式魔石」の価格推移が記されている。


「教会の現在の保有資産、その大半は価値の低い『天然魔石』ですわね。……私が開発した安価な魔力塩が普及すれば、あなた方の持つ在庫は一晩で紙屑に変わる。……あなたがここに現れたのは、信仰のためではない。……教会の『資産価値の暴落』を止めるための、必死の買い支えですわね?」


 セシルの微笑みが、わずかに硬直した。

 

「……亡命令嬢にしては、随分と不遜な口を叩くものだ」


「不遜ではありません。正確なだけです。……枢機卿。あなたが『神』と呼ぶそのペーパーカンパニー、現在の自己資本比率は、私の目から見れば危機的な赤字状態。……今夜、私を連れ去ることに失敗すれば、明日の聖教会の格付けは、一段階ダウンさせていただきますわ」


 広間に、戦慄が走った。

 神の代理人を、これほどまでに「数字」で侮辱した女が、かつていただろうか。


 カシアンが、こらえきれないというように低く笑い、私の腰を抱き寄せた。


「聞いたか、セシル。……彼女は私の『最高経済顧問』だ。……教会の債務整理を頼みたいなら、まずは一分につき金貨六百枚の相談料を支払うことだな。……もっとも、君たちにその余裕があればの話だが」


「……いいでしょう。カシアン卿、そしてエレナ殿」


 セシルは差し出した手を収め、法衣を翻した。

 彼の背後で、聖騎士たちが一斉に冷たい視線を送ってくる。


「数字が全てだと信じるあなた方に、神の『差し押さえ』がどれほど過酷なものか……近いうちにご理解いただきましょう。……魔力塩は、我々がしかるべき手段で収用させていただきます」


 セシルはそれだけ言い残し、嵐のように黄金宮を去っていった。


 ◇


 嵐の去った広間で、私はカシアンに顔を向けた。

 彼の瞳は、先ほどまでの怒りではなく、熱を帯びた「独占欲」で私を射抜いている。


「……エレナ。君は、敵を作る天才だな。教会の全財産を敵に回すとは」


「敵ではありません。……正当な競争相手ですわ。カシアン卿、教会の独占を許せば、帝国の魔法コストは三倍に跳ね上がります。……それは、私たちの利益を損なう」


「ああ、分かっている。……だが、奴らは手段を選ばないぞ。法的手段、あるいは――」


「ですから、カシアン卿。……こちらから仕掛けますわ」


 私は、窓の外に広がる帝都の夜景を見つめた。

 

「一週間後。この帝都の全ての魔導灯を、私の『魔力塩』で点灯させます。……教会の高い魔石を使わずとも、この国は輝ける。……その事実(実績)を市場に叩きつけ、教会の権威を暴落させるのです」


 私は、銀の懐中時計をパチンと閉じた。

 

「……清算の秒読みは、既に始まっていますのよ」


 私の眼鏡の奥で、教会の巨大な大聖堂が、巨大な「不良債権」として赤く点滅していた。

お読みいただきありがとうございます!

セシル枢機卿との第一ラウンド。神の権威を「赤字のペーパーカンパニー」と切り捨てたエレナの舌鋒、お楽しみいただけたでしょうか。

カシアン様も、彼女の不敵さにますます「投資」という名の手放したくない思いを募らせているようです。


さて、次回。

エレナが打ち出す次の一手は、帝都全体を巻き込んだ「魔力革命のデモンストレーション」。

しかし、それを阻もうとする教会の執拗な妨害、そして王国の残党たちが不穏な動きを見せ始め……。


第18話「魔力塩マナ・ソルトの衝撃:一円の魔法、始めます」


「エレナの理詰めが最高にスカッとする!」「枢機卿とのヒリつく関係が気になる!」

そう思っていただけましたら、ぜひ下の【★★★★★】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします!

皆様の評価が、エレナの「市場支配力」をさらに強固にしますわ!

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