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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第16話:王宮から届いた招待状:今度の敵は『神の代理人』です

「――カシアン卿。このドレス、維持費が高すぎますわ。一晩の着用で金貨五枚分のクリーニング代がかかる衣装など、負債を纏っているのと同じです」


 帝都ヴァロア。その中央にそびえる「黄金宮」へ向かう馬車の中で、私は窮屈なコルセットに眉をひそめていた。

 王国にいた頃の地味な事務服ではない。

 最高級の濃紺のシルクに、北方塩湖で精製したばかりの魔力結晶を砕いて散りばめた、夜空のように輝くドレス。

 

 向かいに座るカシアンは、完璧に仕立てられた礼服に身を包み、愉快そうに鼻で笑った。


「投資だと言っただろう、エレナ。今夜、君が対峙するのは帝国の『四公』と、その後ろに控える守旧派の貴族たちだ。……まずは視覚的な『資産価値』で、奴らの度肝を抜く必要がある」


「視覚的なハッタリより、実利のある帳簿を見せる方が話が早いですわ」


 私は、膝の上に置いた小さな銀の手帳――中身は帝国全土の主要貴族の「信用格付け」と「隠し負債」のリストだ――を、愛おしげに撫でた。


「……まもなくですな。お嬢様、カシアン様」


 御者台からハンスの声が響く。

 馬車が停まり、扉が開かれた瞬間、帝都特有の濃厚な香水の匂いと、何千もの魔導灯の光が溢れ出してきた。

 

 黄金宮、大舞踏の間。

 そこは、第1部で叩き潰したジュリアンの王宮など、ただの物置に見えるほどに肥大化した「富の集積地」だった。


「見て。あれがカシアン卿が連れ帰ったという、亡き王国の『亡命令嬢』?」

「ふん、ケチな会計士だと聞いたけれど。……随分と、不釣り合いな宝石を纏っているわね」


 扇に口元を隠した淑女たちの囁き。

 その全てが、私の脳内では「ノイズ」として処理される。


「――おや、カシアン卿。随分と遅いお着きですな」


 歩み寄ってきたのは、腹の出た初老の男。帝国でも有数の穀倉地帯を持つランバート伯爵だ。

 彼の瞳は、私を「女」としてではなく、カシアンの弱点を探るための「獲物」として眺めていた。


「そちらが例の……エレナ・フォン・ロスタンド殿ですか。王国を破産に追い込んだという噂、少々『粉飾』が過ぎるのではないかな?」


「粉飾、ですか。伯爵」

 私は、カシアンの腕からそっと離れ、伯爵の正面に立った。

 

「……ああ。たかが一令嬢に、一国の経済を操れるはずがない。カシアン卿が手柄を譲っただけでしょう。……お嬢さん、帝国の社交界は、数字を弄ぶだけで渡れるほど甘くはありませんぞ」


 周囲に笑いが広がる。

 私は、眼鏡の奥で伯爵の「評価額」を算出した。

 

「ランバート伯爵。……あなたの仰る通り、数字は甘くありませんわ」


 私は手帳を開くことすらなく、淡々と、しかし広間に響き渡る声で告げた。


「昨年の冷害による収穫減を隠蔽するために、あなたが中央銀行から受けた融資。……担保に入れたはずの領地は、既に三年前から、別の闇金融への借入のカタになっていますわね? ……二重抵当は、帝国の法律では重罪のはずですが」


「な……ッ!? 貴様、何を……!」


「さらに言えば、あなたの屋敷に今飾られている名画『黄金の収穫』。……あれは複製品ですわね。本物は三ヶ月前に、私の代理人が運営する競売場で、他国の商人に落札されました。……鑑定料をケチらなければ、本物とのインクの揮発成分の差に気づけたはずですのに」


 伯爵の顔から、一気に血の気が引いていく。

 先ほどまでの嘲笑が、凍りついたような静寂に変わる。


「……私の鑑定しごとは、一度も外れたことはございませんわ。伯爵、あなたの現在の『資産価値』、既に負債が資産を上回っています(債務超過)。……今夜中に、中央銀行が差し押さえに動かないよう、祈ることですわね」


 私は、震える伯爵に一瞥もくれず、隣で肩を震わせているカシアンを促した。


「行きましょう、カシアン卿。……損失ゴミと話している時間は、私の時給の無駄ですわ」


「く、くかかか! 全くだ。……皆、聞いたか? これが君たちが侮ろうとした、我が帝国の『経済顧問』だ」


 私たちが広間を悠然と進む。

 先ほどまで向けられていた軽蔑の視線は、今や「恐怖」と「畏怖」に書き換えられていた。


 だが、その時。


 広間の巨大な扉が再び開かれ、銀色の法衣を纏った一団が現れた。

 その中心に立つのは、若く、鋭い美貌を持つ男。

 胸元に輝くのは、聖教会の最高幹部を示す「白銀の十字」。


「――騒がしいですね。富の計算に夢中で、神への感謝を忘れてしまったのですか?」


 男の声は、まるで冷たい聖水のように広間に染み渡った。

 カシアンの表情が、初めて険しくなる。


「……聖教会の、セシル枢機卿か」


 セシルと呼ばれた男は、まっすぐに私を見つめてきた。

 彼の瞳は、これまでの貴族たちのような欲にまみれたものではない。

 ……もっと深く、暗い、底なしの「支配欲」が透けて見えた。


「エレナ・フォン・ロスタンド。……あなたが『発見』したという魔力塩マナ・ソルト。……それは世界の調和を乱す不純物です。教義に基づき、その全権利を『神の預かり物』として、我が教会が没収いたします」


 私は、銀の懐中時計をパチンと閉じた。

 

「没収、ですか。……枢機卿。神という名の『ペーパーカンパニー』を使って、独占禁止法を回避するおつもりかしら?」


 舞踏会の華やかさは、瞬時に消え去った。

 

 かつては王太子ジュリアン。

 そして今度は、世界を裏から操る「神の代理人」。

 

 私のペン先が狙うのは、もはや一国の領土ではない。

 天界さえも巻き込んだ、人類史上最大の「資産強奪」への宣戦布告。


「……あなたのその『教義』、現在の市場価値でいくらになるか、今すぐ査定して差し上げますわ」


 第2部、帝国社交界編。

 私の帳簿は、ついに「神」をも被告席へ引きずり出す。

お読みいただきありがとうございます!

第2部、いよいよ開幕です。

舞台は帝国の華やかな社交界。エレナを侮る貴族を「隠し負債」で即死させるシーンは、彼女の真骨頂ですね。


そして現れた新キャラ、セシル枢機卿。

「神の名の元の没収」という、経済的に最もたちの悪い相手に対し、エレナがどう立ち向かうのか。

「神」を「ペーパーカンパニー」と呼ぶ彼女の不敵さに、執筆している私もワクワクしております。


第17話「社交界の評価額:私はただの『亡命令嬢』ではありません」

カシアンと枢機卿による、エレナを巡る「奪い合い」も加速していきます!


「2部も期待!」「エレナの毒舌がキレッキレ!」と感じていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】と【評価★★★★★】で応援いただけますと幸いです。

皆様の一票が、エレナの「神殺しの予算」になりますわ!

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