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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第15話:帳簿の聖女の逆襲:これから世界の価値を書き換えます

「――醜い。あまりにも費用対効果の低い姿ですね、ジュリアン様」


 崩壊し、黒い煙を上げる王都。その中央広場で、私はかつての婚約者を見上げていた。

 

 そこにいたのは、もはや人間ではなかった。

 漆黒の魔力を噴き出し、肉体を異形に変え、理性を焼いた「負債の塊」。

 王家に伝わる『血の契約』――それは、未来の命を前借りして破壊を振るう、禁断のオーバーローンだ。


「オ……オォォ……エレナァァ! 貴様のせいだ! 貴様が、私の、全てを奪ったからぁ!」


 地を這うような咆哮と共に、黒い斬撃が放たれる。

 石畳が爆ぜ、衝撃波が私の頬をかすめる。

 だが、私の隣に立つカシアンが、抜剣することなく鼻で笑った。


「見ていろ、ジュリアン。……君が命を削って絞り出したその魔力、今の彼女にとっては『はした金』にも満たない」


 私は、右手に持った一本のクリスタル・ボトルを高く掲げた。

 中に入っているのは、北方塩湖で精製したばかりの、飽和魔力塩の溶液。

 

「カシアン卿、投資を実行します。……防壁展開のコスト、一秒につき銀貨三枚。安いものですわね」


 私がボトルを地面に叩きつけると、瞬間、眩いばかりの純白の結界が広場を覆った。

 ジュリアンの黒い魔力が結界に触れた瞬間、パチパチと音を立てて消滅していく。

 

「な……なぜだ! 私の、命の力が……通じないだと!?」


「当然ですわ。あなたが使っているのは、世界の『隠し口座』から漏れ出した質の悪い残滓ざんし。対して、私たちが使うのは、地脈の底で千年以上かけて純化された『最強の資産』。……格の違いを、数字で理解なさい」


 私は、銀のペンを空中に走らせた。

 『世界の帳簿』が、私の脳内に直接、ジュリアンの「現在の評価額」を投影する。


「ジュリアン・フォン・ロスタンド。……あなたの現在の生存コスト、毎秒金貨五十枚。対して、あなたが周囲に与える価値は、マイナス無限大。……はい、破産確定です」


「黙れぇ! 死ね! 死ねぇぇぇ!」


 ジュリアンが突進してくる。

 だが、その背後に、影が一つ。


「――お姉様、お待たせいたしましたわ」


 涼やかな声。

 祈るように両手を組んだ聖女ミレアが、ジュリアンの背後から現れた。

 彼女の手には、王室の金庫から「回収」してきた、この国の統治権を示す『真実の印章』が握られている。


「ミ、ミレア……!? なぜ、そこに……!?」


「ジュリアン様、お疲れ様。……あなた、もう一ペニーの価値もないんですって。お姉様がそう仰るのだから、間違いありませんわ」


 ミレアが印章を私へと投げ渡す。

 私がそれを受け取った瞬間。

 王宮地下の水晶柱から、王都全土へ向けて『最後通告インボイス』が発信された。


「……王都全域の資産登記、完了。……ジュリアン様、あなたはたった今、自国の土地を占拠する『不法居住者』となりました。……警備保障会社(帝国騎士団)による強制執行を開始します」


 空から、カシアンが率いる帝国の魔導飛行艦隊が姿を現した。

 数千の魔法銃がジュリアンを狙い、一斉に閃光を放つ。

 

 暴力ではない。

 これは、不適当な場所に配置された『ゴミ』を、適切な場所へ移動させるための事務作業だ。


「ガ、ア、アァァァァ……ッ!!」


 漆黒の魔力が霧散し、ジュリアンは元の、弱々しく惨めな男の姿に戻って崩れ落ちた。

 彼は血の気の引いた顔で、私を見上げる。


「待ってくれ……エレナ。やり直そう。君が隣にいれば、この国は……」


「契約解除の通知は、一ヶ月前に済んでいます。……ハンス、彼を『無価値な囚人』として収容所に。……あ、彼の豪華な衣装は、糸の一本まで剥ぎ取って売却するように」


「はっ。承知いたしました」


 ハンスが、跪くジュリアンを冷酷に引きずっていく。

 かつての婚約者が流した涙。それは、一円の価値も生まない、ただの水分に過ぎなかった。


 ◇


 朝日が、崩壊した王都を照らし始める。

 

 カシアンが、折れた王冠の欠片を拾い上げ、私に差し出した。

「……これで王国は、地図から消えたな。帝国の管理下で、君が再建するんだろう?」


「いいえ。帝国にも属さない、世界初の『自由経済特区』にしますわ。……名前は、『レジャー(帳簿)』。私が世界の価値を書き換えるための、最初の拠点です」


 私はミレアの肩を抱き寄せ、共にカシアンを見上げた。

 ミレアは、悪女の仮面を脱ぎ捨て、少女のような無垢な笑みを浮かべている。


「お姉様、これからは毎日一緒ね?」

「ええ。ただし、あなたのサボり癖は、しっかり給与から天引きしますわよ」


 カシアンが、愉快そうに肩を震わせる。

「……やれやれ。国家を買い叩き、王家を解体し、次は世界をどう料理するつもりだ? 帳簿の聖女」


「決まっていますわ」


 私は、新しい帳簿の表紙をめくった。

 そこには、大陸の全国家、そして聖教会の不正を示す数字が、黄金色に輝いて踊っている。


「世界の帳簿を、監査クリーニングします。……私にとって、この世に『高すぎて買えないもの』など存在しませんわ」


 私は眼鏡を押し上げ、地平線の彼方を見据える。

 

 復讐は終わった。

 だが、私の清算は、これからが本番だ。

 

 数字は、一度も嘘をつかない。

 そして私は、世界で最も『正確な』女なのだから。


(第一部:王国破産編 完)

第一部、完結いたしました!

最後までエレナの「国家買収」を見届けていただき、本当にありがとうございます。

無様に没落した王太子、そして最高の共犯者だったミレアの合流。

王宮の瓦礫の中で微笑むエレナの姿、皆さんの目にどう映ったでしょうか。


しかし、物語はここで終わりません。

エレナが手にした「塩湖」と「世界の隠し口座」の謎。

それは、帝国さえも呑み込もうとする巨大な利権の渦へと繋がっています。


次章、第二部「帝国買収編」。

舞台は帝国の華やかな社交界、そして世界の金融を操る「聖都」へ。

さらに磨きのかかったエレナの「数字による暴力(断罪)」にご期待ください!


「第一部、最高だった!」「二部のエレナも早く見たい!」

そう思っていただけましたら、ぜひ【評価★★★★★】と【ブックマーク】で、エレナの次なる投資を応援してください!

あなたの評価が、第二部のエレナの「軍資金」になりますわ!

明日からは1日1話の投稿予定です。

お楽しみに。

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