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世界を買い叩く女令嬢、新大陸の油田で神を売る 〜最強の会計士は、敵国の「心臓」さえも査定する  作者: 月花いとは


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第13話:世界の端数(マナ)が合わない。誰かが『隠し口座』を持っている

「――魔力とは、神の恵みなどではありませんわ。カシアン卿」


 買い叩いたばかりの王宮、その地下深く。

 歴代の王族さえ立ち入りを禁じられた「魔力貯蔵庫リザーブ」の最深部で、私は冷たい石床に膝をついていた。

 

 カシアンが掲げる魔導灯の光が、埃の舞う空間を青白く照らし出す。

 目の前には、かつて王国全土に魔力を供給していた巨大な水晶柱が、ひび割れ、色褪せた姿で沈黙していた。


「恵みでないなら、何だと言うんだ。この世界のことわりか?」

 カシアンが背後から問いかける。

 彼の懐からは、例の「壊れた懐中時計」が刻む不規則な秒針の音が響いていた。


「いいえ。この世界の『運営費』です」


 私は、眼鏡を押し上げ、水晶の表面に浮かぶ微細な魔力の「流れ」を指先でなぞった。

 私の瞳には、それがただの光には見えない。

 黄金の数式。貸借対照表。

 そして、決定的な『不一致』として映っている。


「太陽が昇り、雨が降り、魔物が生まれる。その全ての事象には『コスト』がかかります。その支払いに使われる通貨が、マナと呼ばれるエネルギーですわ。……ですが、おかしい。計算が合いません」


「計算だと?」


「ええ。過去五百年の大気中の魔力濃度、および地脈の流出量。……これらを合算しても、現在、世界に『残っているはずの魔力』が、総計の三割も足りないのです」


 カシアンの眉が、鋭く跳ね上がった。

 

「三割……。それは、ただの自然減衰ではないのか?」


「いいえ。エネルギー保存の法則を無視した『紛失』です。会計用語で言えば、使途不明金(使途不明マナ)。……誰かが、世界の帳簿を改ざんし、魔力を別の場所に流し込んでいますわ」


 私は立ち上がり、埃を払った。

 

 故国の無能な宮廷魔導師たちは、魔力が減ったのは「人々の信仰が足りないからだ」と祈りを捧げていた。

 王太子ジュリアンは、「聖女ミレアの力が足りないからだ」と彼女を責めていた。


 笑止千万。

 祈りで魔力が増えるなら、帳簿係など必要ありませんわ。


「この地下の空隙。ここには、その『隠し口座』にアクセスするための端末ポートが隠されていました。……王宮を買い叩いた真の目的は、これです」


 私は、水晶柱の台座にある、目立たない窪みに指を差し入れた。

 カチリ、と。

 何かが噛み合う音が響く。

 

 直後。

 石室全体が、激しい振動と共に黄金色の光に包まれた。


「……ッ!? エレナ、下がれ!」

 カシアンが即座に抜剣し、私の前に立ちはだかる。

 

 だが、私は動かなかった。

 光の中に浮かび上がったのは、巨大な、あまりにも巨大な「ホログラムの帳簿」だった。

 それは、大陸全土、いや世界そのものの資産状況をリアルタイムで刻み続ける、神の計算機。


 しかし、その美しいはずの数式は、赤黒いノイズで汚染されていた。


「見てください、カシアン卿。……ここです。この『北方塩湖地区』、そして『聖都中央銀行』の項目。……異常なまでのマナが、一方的に吸い上げられています」


「……誰が、こんな真似を」


「特定は容易ですわ。このマナの流出先に、共通の『承認印アクセスキー』が刻まれています。……聖教会の最高幹部、あるいは――」


 私は、言葉を切り、カシアンを見つめた。

 

「……あるいは、この世界を『管理』していると自称する、何者かです」


 カシアンの瞳に、初めて恐怖にも似た驚愕が走った。

 彼は、自らの懐中時計を取り出し、その壊れた秒針を見つめる。


「……エレナ。もし、君の言う通り『世界の帳簿』が改ざんされているのだとしたら。……正しく監査スクリーニングし直せば、どうなる?」


「決まっていますわ」


 私は、銀のペンを執り、空中に浮かぶ赤黒いノイズの一点を突いた。


「不当に隠匿された資産は、全て没収します。……世界そのものを、一度『倒産』させ、私が再建する。……それだけの話です」


 ――静寂。

 

 カシアンは、しばしの沈黙の後、肩を震わせて笑い始めた。

 

「くっ、くかかか……! 国家を買い叩くだけでは飽き足らず、次は神の帳簿を監査するか! ……いいだろう。君という『怪物』に、私はどこまでも投資してやる。……全額、賭けてやるぞ」


「……高くつきますわよ、カシアン卿」


 私は、手帳に新たな項目を書き加えた。

 

『監査対象:世界システム。予測回収額:無限。……さて、まずは足元の『ゴミ』から片付けましょうか』


 その時。

 私の通信機が、激しく明滅した。

 ミレアからの、緊急の隠密通信だ。


『お姉様。……大変よ。ジュリアンが、正気を失ったわ。……帝国の商人に王宮を追い出される寸前、彼――王家の禁忌である「血の契約」に手を出したみたい』


 私は、眼鏡を冷たく光らせた。

 

「……不良債権が、最後のあがき(自爆)を選んだようですね。……カシアン卿、王都へ戻る時間を前倒しします。……これ以上の価値の毀損きそんは、認められません」


 復讐の劇は、今、世界の運命を賭けた「最終決算」へと突入した。

お読みいただきありがとうございます。

物語はついに、この世界の「魔力」の正体――そして、それを不正に隠匿している「誰か」の存在へと迫り始めました。

エレナの目的は、もはやジュリアンへの復讐に留まりません。世界の帳簿そのものの「適正化」です。


さて、次回。

追い詰められた王太子ジュリアンが、ついに禁断の力に手を染めます。

物理的な破壊を厭わない彼に対し、エレナはどうやって「経済的・論理的」に彼を無力化するのか。

そして、あの「塩湖」が、物語の鍵として再び浮上します。


第14話「今はガラクタ、数年後はダイヤ。この塩湖を買い取ります」


「スケールが大きくなってワクワクする!」「エレナの不敵さがたまらない!」

そう思っていただけましたら、ぜひ下の【★★★★★】と【ブックマーク】をお願いいたします。

皆様の評価が、世界の帳簿を正常化するエレナの「監査能力」を高めますわ。

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