19 あやめは男の子か男の娘か
千鶴:9歳
春風そよぐ空が高い今日。玉鬘姉様の裳着の式が行われる。
裳着というのは女子の成人式で、裳という衣装を初めて付けることが由来だそう。
他にも髪を切ったり、大人の女性の格好へと色々変わるんだけどね。
そんなわけで今日はお祝いなのだ。僕も耳の脇でくるんと輪っかをつくり、下げみずらを結いている組紐部分に梅の枝を刺している。
ちらちらと視界に梅の紅色と白色が入ってきて若干目障りだけど、華やかになるし雅な感じだから仕方ない。
玉鬘姉様の結婚相手は誰になるのか、源氏に何回か聞いたけどはぐらかされ続けた。あの人と話していると主導権が常に奪われるというか、源氏が話したい話にいつの間にかすり替わっている。
これが世界を魅了した源氏か、と戦慄する。
「若様、私、本当にこちらの格好でよろしいんですか?」
待機中に竹丸、もといあやめが声をかけてきた。
「もちろん。10人いたら11人が女子と答えるような美少女に見えるよ」
そう、竹丸には童女の格好をしてもらっている。もう13歳なので成長期に突入するギリギリといったところか。
「このような場にもあやめとして行くなんて、成果が問われますね」
「緊張してる?」
「高揚感はあります」
自信たっぷりのあやめの笑顔は艶かしくまであった。
「あやめが本当は男だと知らなかったら、逢瀬を申し込んでいたよ」
クール系な美少女ってのもいいよね。ハーレム作るんだったら色んなタイプがいてほしいから。
「男同士でも良いことはできますよ? いかがです、若様」
はあ?
あやめが本気とも冗談ともつかないような微笑で言った。
つまりボーイズラブなるものに誘われてるってこと?
正直返事にとても困る。可愛い女の子といちゃらぶするのが夢なのだ。
「貴族だと男同士って、よくある?」
「それなりにですかね。出世の手段にもなりますし」
「出世?」
「貴人の寵愛を賜ることができれば、普通では得られない地位につけますから」
なるほどね。お偉いさんの愛人になれば異例の出世ができる。単純な恋愛感情だけではない場合もあるみたいだ。
「じゃあ、あやめはそんなに野心があるってこと? 僕の乳兄弟ってだけじゃ足りないの?」
乳兄弟ということだけでも十分なコネクションにはなると思うけど。
「そこまで野心は強くないですよ? 若様は女房たちに手解きを受けるのが嫌だと言ってたじゃないですか」
「それは言ったけどさあ」
「なら男が好きなのかと思いまして。興味があるならお相手しますよ?」
そういうことで女房が嫌と言ったんじゃないのさ。親戚のおばちゃんくらいの関係の女房と閨を共にするのが嫌なんだよ。萎えるよそれは。
男同士だって、前世の妹がBLを少し嗜んでいたから、知識はある。だが、自分の性的指向は女性なんだよ。
…………正直あやめが男だと知らなかったら抱こうと思えるけど。
男の娘というジャンルが好きな人の気持ちも若干分かってしまうかもしれない。いや、これ以上新しい扉を開けないでくれ。
「別にだからといって男が好きなわけじゃない。あやめは経験あるの?」
「ないです」
「え、ないのにそんな自信満々なの?」
「知識ばかりが増えてしまって困りますね」
大袈裟に眉をしかめているあやめ。全く困ってなさそうなリアクションだ。
「そういう知識ってどこから仕入れてくるのさ?」
「師匠のところでもありますけど、女房の噂話とか家人、童などからもよもやま話で聞きますね」
「童からも?」
「殿の守備範囲は大変広くていらっしゃるものですから」
源氏が成人男性の家臣だけでなく、年端も行かない子どもにまで手を出しているってことか。
うげえ、父親のそんな話聞きたくなかった。
まあ、かの光源氏だからそんなものではあるかもしれない。
「話ばかり聞いていては人間関係は円滑に進まないのです。こちらからも何かしらな話題を提供しなければいけません」
あやめが立ち上がってこちらに近づきながら滔々と話し出す。
「つまり話題作りのために、若様、同衾しましょう」
嬉々とした笑顔であやめが言った。
腹を目掛けて蹴り上げる。身長差のせいで股間に当たった。
油断していたあやめは悶絶してうずくまった。
「いっ、……!! ぅおあぉ…………。わ、わかさま、ひどい……」
「お前、顔がやらしい」
「いやらしくないでしょ、一番綺麗に見える笑顔したのに」
痛そうなのを見ていると、同じ男として自分のも痛くなってくる気がする。さすがにやりすぎたかも。可哀想な気がしてきた。
「ちょっとやり過ぎた、ごめん」
「うう、兄上に言いつけます。これで私の子種に異常が出たらどうしてくれるんですか」
目に涙を溜めて上目遣いで睨むあやめ。顔だけは良いのになあ。この性格なものだから。
「ごめんて。そんなに強く当たってはないから多分異常は出ないと思うけど……。もし何かあったらどうにかするよ」
「はあ、若様を少し誘っただけなのに」
「それが原因だから」
「言葉よりも態度で誘った方が好きでしたか? 今は無理ですけど脱ぎながらの方が良いですかね?」
うーん、全く反省の色が見えない。可哀想じゃなかった。
「そういえば菊丸が呼びにくるって言ってたけど、なかなか来ないね」
「ええー、無視は酷くないですか?」
「腰結とか長引いてるのかな」
「その話を続行する感じなんですね」
きっと玉鬘姉様と頭中将の父娘の会話が弾んでいることだろう。
今では頭中将ではなく、内大臣だったかな。
「若様が以前、玉鬘様は内大臣様の娘だと言ってたじゃないですか。あれ、本当だったんですね」
「嘘だと思ってた?」
「そこまでじゃないですけど、驚きというか」
「まあそうだよね。人ん家の娘を無許可で養女にするなんて」
しかも政敵の女の子っていうのがすごいよ。
平安時代、女の子は政略結婚をさせる駒として重要な役目があった。駒の一つを奪って、源氏側の駒にしてしまったということだ。
玉鬘姉様の結婚相手は、強力なコネクションができるから恩恵もたくさんあるけど、実父の頭中将にも養父の源氏にも愛想をよくしないといけない。
政界のドンみたいな人たちである。そんな奥さんもらうの怖すぎる。僕だったら辞退したい。
「さすがは殿といったところでしょうね」
ーーー
「若、失礼します」
その後もだらだらとあやめと話をしていたら、菊丸が呼びにきてくれた。
「おー、菊丸。お疲れ様」
「本当に疲れましたよ。ですが内大臣様のご尊顔を見ることができました」
「いいなあ」
「若も最初から来れば良かったんですよ」
「それはちょっと。だって菊丸が来るまでとっても長かったよ。暇で暇で」
裳着の式の最初から最後まで周りをうろちょろするつもりなら、今あやめと過ごしていた長い時間、寝ることもできずに見ていなければいけない。
ちょっと耐えられるか微妙なところだ。
「玉鬘様とお会いになるなら今ですよ」
「せっかくだから成人した姉様に会いにいかないとだね。姉様はどこにいる?」
「母屋の奥の部屋で休憩なさっています」
「休憩中に押しかけて大丈夫かな?」
「今まで若とお話ししている玉鬘様は、さほど気を遣っていないように見えたので大丈夫ですよ」
気兼ねない仲だから、玉鬘姉様を疲れさせないよって言いたいのか。
だらだらしていて衣装の少し崩れた部分を、菊丸が手直してくれる。
「ありがとう。じゃあ行こうか」
いつも華やかだけど、儀式用にもっと美しく着飾っているだろう玉鬘姉様を見にいこう。
今後BLにはなりません。ヒロインちゃんを出すまでに時間がかかりすぎているので見た目だけでも女の子を出したかったんです。
【追記 2025.12】
大幅改訂しました。ものすごく変わってます。活動再開はまだ先になりそうで申し訳ないです。
……手慰みに趣味全開の話書いたりしてるんですけどね、飽き性なのでまとまって書けないんです(小声)




