第八.五話 雷の噂
「……本当に、雷だったの?」
昼の受付が落ち着いた頃、相談所の奥で同僚が尋ねた。
女性は書類を揃えながら頷く。
「私も最初は、何か勘違いしているんだと思ったんだけど」
「実際に見たの?」
「訓練場で。青白く光って、木板に焦げ跡がついた」
「火の魔法じゃなくて?」
「違う。あんな魔法、初めて見た」
同僚が椅子を寄せた。
「どんな人?」
「若い女の子。金色の髪で、眼鏡をかけてた。服も変わっていて……本人は、出た雷が小さいって残念がってたけど」
「雷を出しておいて?」
「そう。もっと派手なのを想像してたみたい」
思い出して、女性が少し笑う。
少女は木板に残った焦げ跡を見て、がっかりしていた。こちらが驚いている理由さえ、分かっていなかった。
「雷戰の昔話みたいね」
「私も、その話をしたの」
「それで?」
「伝説と比べたら、自分のは小さすぎるって」
同僚も笑いかけた。
「……何の話だ?」
書類を取りに来た上司が、戸口で足を止めていた。
「雷を使う子が来たんです。滞在の登録で」
女性が答えると、上司は持っていた書類を机へ置いた。
「お前が確認したのか?」
「はい。私が訓練場へ案内しました」
上司は空いている椅子を引いた。
「登録の記録を。それから、見たことを詳しく聞かせてくれ」
女性は揃えたばかりの書類から、少女の名前がある一枚を取り出した。
◇
数日後、相談所から上がった報告は王城へ届いた。
執務室で話を聞いていた王は、書類をめくる手を止めた。
「雷、と言ったか」
「はい。相談所の職員が、実際に確認したとのことです」
差し出された報告書を受け取る。
王の目が、記された少女の特徴を辿った。
金色の髪。眼鏡。見慣れない服。
「その者は、今どこに?」
「すでに町を出たようです。門の記録では、東へ向かったと」
王は答えなかった。
窓の外から、遠くの鐘の音が聞こえる。報告を終えた男が待つ間も、王は同じ箇所を見つめていた。
やがて、低く呟く。
「……まさかな」




