7 天つ空 アマツソラ
「はるく! こっち!」
「ごめん、遅くなった」
「いいからはやくいこ」
今日は、霄のご褒美の日。今日は霄の自由に貢がれるらしい。本人の希望なので全面的に受けるつもりではいるが……これって霄の親の金だよな。あの人が稼いだ金だ。
「やっぱり小遣いは多いのか?」
「うん? おれ? あんまりもらってないかも。今日つかうお金はおれが投資で稼いだお金。さいしょの元手はさすがにおこづかいだけど」
「投資……?」
ちょっと霄から聞くと思ってなかった単語に動揺する。やっぱ金持ちの家は教育方針とかでそうなるのだろうか? よく分からないが……
「いまももらったらぜんぶ投資にまわしてる。稼ぎのいちぶ持ってきたってかんじ」
「そうなんだ……金持ちあるある?」
「それはしらないけど……おれ母親にきらわれてるから……」
母親か。霄の弟贔屓って言ってたな。前回のテスト勉強で機嫌が悪そうだったのも、もしかして母親が関係しているのだろうか。勉強自体は嫌がっても、一緒にいようとすることの方が多かったから、おかしいなとは思ってた。
そんな母親に嫌われているのが投資をしている理由ってことは、立場や資産のために父親に仕込まれたということだろうか。やっぱり、あの人は霄の味方なんだろうな。継がせたいのも、霄――
「そんなことより、まず洋服ね。はるくに似合う服えらんでもらお」
手を引かれて、いつも行かないエリアに連れていかれる。とはいえ、ブランドのロゴとかは見覚えがあるものもある。柚葉くんのせいだろう。柚葉くんは適当に良い物よこしてくるから。
「はやくはやく」
その日、俺に使われた金はいくらになったか知らない。知るのが怖くて、値段は見ないようにしてたから……ただ、家に帰って母親がちょっと引いてたから相当なものだったんだと思う。
霄が満足気だったからどうでもいいか。
新学期、変わった学校でもクラス替えは普通に存在する。一般的な学校とズレているのは、選択科目とそれに合っているのか合っていないのかよく分からないクラス編成くらいだ。
交流がクラス内だけで終わらないようにしてあるのか、他クラスとごちゃ混ぜにされる授業が多いらしい。
「名前見つけた?」
「いや、まだ……」
学年の人数が多いと自分の名前を探すのも一苦労だな。一天に話しかけられて、どのクラスまで見たか忘れかけたがギリ耐えた。これで見失っていたら文句ひとつじゃ済まなかった。
「あったよ、はるく! 同じクラス!」
そんな言葉と共に飛びつかれて完全に見失った。でもまあ、同じクラスというなら探す必要はもうないか。
「え、嘘。どのクラス? 俺も一緒だといいなあ」
「5組だよ」
「俺もいるかな……いる! 三人一緒だ!」
5組なら、後半から探したのが間違いだったな。
「よかったな」
「いやなんで他人事? 嬉しくないの?」
「やかましい」
「きょうしつ行こうよー」
霄のご機嫌はまだ続いているらしい。おっかなく思うくらいには良い物が家に増えてしまったこと以外は良かっただろう。せっかく買ってもらったし、霄と私服で遊ぶ機会を増やすのもアリだな。
それにしても、もう一年経ったのか。早いな。
木から落ちてきた霄と出会って、一天に引き合わせられて再開して、三人で校外学習一緒に行動して、その日から柚葉くんのとこに行くのが恒例になって、妹たちとも仲良くなって――
「あの、犬浦くん」
えっと……確か鹿野内さんだったか。いいとこのお嬢様だったよな。あまり話したことなかったけど……
「どうかした?」
いじめから庇ってもらった恩を全く感じていないわけではない。いじめを特に気にしない俺でもさすがにありがたいとは思ってる。
「また、同じクラスだね」
「そうだね……?」
いや、まあ事実また同じクラスではあるんだけども。まさか、それだけの用で話しかけてはこないだろう。
「ごめんなさい! 先生に頼まれて、これを渡しに来たんだけど……忘れるところだった」
慌てた様子の彼女にちょっと微笑ましく思いながら、預かったという書類をもらう。校外学習の書類だ。タイムリーだな。
「ありがとう」
それにしても、結構な家柄だと聞いていたが、先生に頼み事とかされるんだな。意外とそのあたりは差を付けないように先生側もしているのだろうか。
「校外学習は、やっぱり猫羽くんと熊籔と一緒に……?」
「まあそうだね」
「そうだよね……それ、来週までだって。じゃあ」
何か言いたげだったか? 違和感がちょっとあったけど……まあ、いいか。そんなによく知らないし。
「晴空、珍しい人と話してたじゃん」
また、一天は他人の席に勝手に座って……
「かのうちさんとなに話してたの?」
霄は相変わらず俺に登って……
「これもらってた」
「校外学習かー、今年はどこ行く? いつも柚葉さんのとこだし、たまには別のことしてもいいんじゃない?」
「そんなこと言い出すなんて珍しいな」
いつもなんだかんだ、俺たちがお互いに気を使わずに済む、柚葉くんのとこに落ち着く。それに何かを言うことは誰もなかった。
「かずと、おれにやきもちやいてる」
「え、なんで」
やきもちって、今更立場とか財産とかそういうものに妬くわけもないだろうし、第一こんな風に話題に出さないというか、出せないだろう。
「二人で出かけて貢がれたんでしょ、霄に」
「まあ……」
「俺にも貢がせてよ」
なんで一天まで貢ぎたがるんだ。悪趣味だな。せめて彼女とか作って貢いでいればいいものを。
「おれもまだなんか買いたい」
「なんでだ」
「え、待って、校外学習の日、晴空の誕生日じゃね?」
「ほんとだ」
うわ、本当だ。柚葉くんのとこ行くのやめた方がいいかもな。柚葉くんも貢ぎたがるから……
「貢ぎチャンスじゃん」
「ほんとだ!」
どっちに転んでも貢がれるのか……
「誕生日くらい良くない? プレゼントだと思ってさ。貰ってもらった方が、こっちも嬉しいんだけど?」
「じゃあ……一人一個までなら……」
「いや、五個」
「一個」
「よんこ」
「一個!」
「せめて二個!」
なんでこんなに貢ぎたがるんだ本当に。貢いで何が楽しいっていうんだ。
「誕生日おめでとう!」
「おめでとー」
結局、当日二人から二つずつ貢がれて――高級な時計とかは全力で拒否した――柚葉くんのところに来て柚葉くんにまで貢がれて――こっちは良い時計を押し付けられた――珍しく柚葉くんの料理が振舞われている。
「ありがとう。でも、今年限りにしてほしい……」
「俺の料理に不満でも?」
「そっちじゃなくて」
絶対わざとだ。プレゼントをすっとぼけられてる。分かってて言ってる。
そして、二人も乗っかって口を尖らせてる……三人に思わず苦笑して、どうやって来年以降どうにかするか考え始めたところで、ドアの音がした。妹たちが帰ってくる時間にはまだ早いよな……
「晴空、誕生日おめでとう!」
なぜかクラッカーの音と同時に織部くんが登場した。久々に見たな。いつも忙しいらしくしばらく会えていなかった。
「誰?」
「俺の兄貴の織部」
「おりべさん……」
織部くんが小脇に抱えているのはやっぱりプレゼントだろうか。本当に嫌な予感がする。
「ありがとうだけど、プレゼントはいらないよ?」
「まあまあ、そう言わず。柚葉、俺の分のメシある?」
「しゃーなしにある」
「しゃーなしかよ。いただきます」
俺に無理やり箱を押し付けてご飯を食べ始める。この人たちは本当に、何で俺に貢ぎたがるんだ。




