6 暁天 ギョウテン
「え、霄誕生日1日だったの?」
「え、うん」
年末年始は家族で過ごし、新学期を迎える。このクラスもあと3か月だ。
「今日、誕生日パーティしよ。好きなもの作るよ」
「晴空バイト休み?」
「まあ、休みだね」
どうせバイトのない日はいつも通り、柚葉くんの家でダラダラとするんだろうし、そこでささやかでも祝いたい。
「でも、かずとの誕生日もなんもしてないし……はるくの誕生日はいつなの?」
「俺は4月だね。18日」
「それこそ、言おうよ。次の誕生日は盛大に祝っちゃうからね」
一天の誕生日は8月だったらしい。3人とも絶妙に祝われにくい誕生日なんだな……
俺は入学とか進級してすぐだから、誕生日を知られる頃には終わってるし、一天は夏休みだし、霄は冬休みだし……
「あんま仲良い友達いたことないんだけど、男でも誕生日パーティやるで合ってる?」
「俺らに常識聞いてる?」
「そうだった、ちょっと特殊か」
金持ちの誕生日ってどんなだろう。やっぱりドラマみたいに盛大にパーティするものだろうか。まあ、どうせ縁はないし知らなくていいか。
「はるく、ケーキ作れる?」
「作れると思うけど……」
「作れるんだ」
「じゃあ、チーズケーキ食べたい」
なるほど。定番はショートケーキのイメージだけど、霄はチーズケーキが好みと。
チーズケーキを作ったことはないが、ケーキ自体は作ったことがあるから大丈夫だろう。
「帰りに材料買ってこ。調べとくから」
「分かった!」
無事に退屈な学校での時間が終わり、予定通り材料を買いそろえて柚葉くんの家へ向かう。調べたところ、あまり作り方も難しくなさそうだった。
「ふたりもいる?」
「まだいないと思うけど、そのうち来るんじゃないか」
妹たちは部活があるので、まだ帰ってないだろう。やっぱりせっかくパーティするなら人が多い方がいいのか。
「とうにすすめられた本、ちょうどきのう読みおわったんだ」
なるほど、会って話したかったのか。本当に仲がいいな。二人が楽しそうに話しているのは傍から見ていても楽しそうだし可愛いからいいけど。霄と一天がそれぞれ二人の妹と仲良さそうに話していると、俺が余るのがちょっと切ないというのは誰にも言うつもりはないけど。
「はるく?」
「ん、さっさと作り始めるわ」
柚葉くんの家に駆けこむようにして入ると、柚葉くんへの挨拶や雑談もほどほどに、ケーキの製作に取り掛かった。
ケーキの出来はなかなかで、霄が嬉しそうで、俺も満足だった。
霄の誕生日を現実逃避のように思い出しているHR、もう球技大会の季節らしい。いい加減にしてくれ。
「もう、テストの時期じゃん。いい加減にしてほしい」
まあ、一天はそうだろうな。今学期は学年末テストのみだし、いちいち嘆かないでほしい……いや、学期毎に一回のみの球技大会に嘆いている俺も人のことは言えないか……
「球技大会は前回と同じ種目?」
「まあ、そうだな」
卓球を好んでやる人には申し訳ないが、卓球はかなり都合がいい。スポーツの特徴以外でも、このクラスにガチ勢がいないことも大いに都合がいい。とても助かる種目だ。
「でも、球技大会もテストも終わったら、クラス替えだなー」
「ああ、確かに」
「また同じクラスがいいな」
別に、一天なら他にいくらでも友達ができると思うんだけどな。わざわざいつも俺と一緒にいなくても。性格的にも、家柄的にも、関わりにくい人の方が珍しいだろう。
「別に、違うクラスの霄とも楽しくやれてるんだし、違うクラスでも大丈夫だろ」
「クラス違っても遊びに来ていいよってこと?」
「嫌だって言っていいのか?」
「それが嫌だ」
そう言うなら勝手にすればいいのに、と思わず思うが、まあこれがこいつの懐っこさなんだろうな。俺はそれより、霄と同じクラスになりたいけど。もう十分すぎるほど、寂しい思いをしてると思う。いじめには遭わなくても、あの絶妙な距離感は寂しいだろう。
「そうだ、今日晴空ってバイト休みだったよな? でも、俺用事あって先帰るしかなくて……」
「了解」
「え、それだけ?」
「え、それだけ」
何を求めてるんだお前は。一々大げさに寂しがるほうが気持ち悪くないか。それに大体、いつも都合がつかないのは俺のほうだし。
「俺が寂しい……でも仕方ない……避けられないから……いつもは晴空のバイトある日と被ってたのにな……」
「定期的にある用なんだな」
「うん、実はね」
意味ありげに笑う一天。別に俺は深く聞かないけど。金持ちの事情は一生理解できる気がしないし、柚葉くんにも理解しなくていいって言われてるし。
「まあ、頑張れよ」
「うん、ありがと」
頑張る必要があるものなのかは全くわからなかったが、どうやら頑張らないといけないことらしい。やっぱりなんだかんだ大変そうだな。いつも能天気で、テスト以外は気楽そうにやっているように見えて。
「ってことで、一天は先に帰ったよ」
「うん、しってる」
まあ、そりゃあ霄は知ってるか。連絡も取り合ってるだろうし。
「はるく、かずとにはないしょにしてほしいんだけど」
「うん?」
「おれ、しってるんだ。かずとが先にかえる日、なにしてるか」
少し悲しそうに、辛そうに見える気がする。いつも一天が陣取っているクラスメイトの席を勧めて座らせる。
「そうなのか」
「うん、かずと、うちの父親によびだされてるんだ」
「お父さんに?」
あの、猫羽灰明にか。特に問題ありそうな感じしなかったけど、何のために……
「おれのことはおれに聞けばいいのにね」
なるほど。霄の様子を報告させてるのか。この親子、上手く行ってないんだな、やっぱり。
「霄はお父さんのことどう思ってるんだ?」
「うーん、なんとも。なにかおもってるとしたら父親のほうだとおもう」
あの人、相当不器用そうだったもんな。どう接していいのか分かんないんだろうな。
「そのためにかずとはおれといてくれてたんだよ。いまははるくもいるからだとおもうけど」
「うん、でも、霄と一緒にいるの無理してたわけじゃないと思うよ。様子伺うだけなら、一緒にいる必要ないと思うし」
「うん、おれがひとりだと気になっちゃうんだろうね」
最初に俺に話しかけてきたのもそうなんだろう。ほっとけない、とか、落ち着かないとか、根っからのお人好し。俺は気づいても指摘しないし、好きにするけど、その分一天にも好きにさせるつもりだ。
「いつか、同情とかそういうのまったくないひととなかよくなれたらいいのにね、かずとも」
「そうだな」
無理な話ではないだろうが、俺たちを構っている間はこのままだろうな、きっと。
「そうだ、はるく、あのね」
「うん? どうした?」
「まえのテストのとき、ごめん。ずっとあやまろうとおもってたんだけど、ふつうだったから」
「触れにくかった? 別に気にしなくていいのに。俺もちょっとしつこかったかなって思ってた」
気にしてたんだな、もう気にしてないと思ってた。
「それでね、こんどのテストはいっしょにべんきょうしたい」
「え? ほんとに? なんで」
「テスト、わるすぎておこられた……」
「え、怒られるんだ。じゃあ、頑張ろうな」
今までの感じからして、まったく怒られないんだと思ってた。だから霄も気にしてないんだと思って――
「やる気はぜんぜん出ないけど……」
出ないんだ……でもそうか。霄はやる気さえ出れば勉強はできると思うけどな。もったいないといつも思ってた。そうだな……
「なんかご褒美とかあれば頑張れそう?」
「ありかも」
「じゃあ、俺の出来る範囲でよければなんかご褒美あげるよ」
「はるくからごほうび……」
真剣に考えこみ始めてしまった。まあ、うちの事情は知ってるわけだし、金のかかることは要求してこないだろう。じゃあ、なにが出来るのかって話ではあるけど。何かあるだろうか。
「じゃあ、はるくとふたりだけで出かけたい。費用ぜんぶおれ持ちで!」
「え、それご褒美になる?」
「うん。はるくいつもおかね出させてくれないし。かずとと取り合いになるし、それがいい!」
知らないうちに取り合いされてるし。なんで俺に金を使いたいのかは全く分からないけど、まあそれがうれしいならそれでいいか。
「じゃあ、目標設定するか。前回の順位は?」
「点数じゃないの?」
「難易度が分からないから、平均に対してって考えたら順位の方が分かりやすくないか?」
「なるほど」
前回の順位は430位らしい。戻ってるじゃないか……最高は392位か。
「それなら、380位以内かな」
「え、きびしくない?」
「でも、ご褒美欲しいんだろ?」
「……がんばる」
まあ、俺が勉強を教えるなら、俺にとっても目標になりそうだな。どれくらい詰め込めるか。俺の方も頑張ろう。
「それで、この結果かー。なんか、やる気だなとはテスト前から思ってたけど」
「がんばった」
「頑張ったな」
思わず霄の頭を撫でる。機嫌良さそうに笑ってて可愛い。霄は378位をとった。俺もいつも通り現状維持、一天も174位で、前回よりアップは達成している。
「おれのべんきょう見ててくれたのに、はるく1位すごいね」
「まあな」
さすがに、今回順位落としたら霄が責任を感じそうだったから、とは本人には言えない。一天は察しているだろう。俺の中で霄の優先順位が高いことも含めて。




