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第15話 おっさん、食材探してたら聖女に出会った

「店長~レイナさん元気かな~~さっさっ」


 ド田舎食堂の店内で、コレットがホウキを掃きながら呟く。


「機嫌よくやってんだろ」


 レイナが王都に旅立って、もう一か月が経った。

 あいつも18歳と若いが、自立した冒険者だ。俺たちがどうのこうの詮索することでもない。それに、たよりがないのは良い知らせ、って言うしな。

 まあ、コレットは寂しがっているようだが。


「ひまですねぇ~店長~~ふきふき」


 のんびりとテーブルを拭くコレットが、間のびした声でぼやく。


「おう、暇なら皿でも磨いてろ」

「やだなぁ~、すでに磨きすぎてピカピカですよぅ。あ、今日の新聞でも読も~っと」


 彼女が広げた紙面には、王都発の大きな記事が踊っていた。


「わぁ~~大教会の聖女さまが、この辺境の地においでになってるらしいですよ」

「そうなんか」

「店長ってそういう事に全然興味ないですよねぇ~」

「ま、ぶっちゃけ興味ないな」

「聖女さまですよ! 美少女なうえに清楚の塊ですよ! 男ならだいたい好きだとおもいますよぉ~」


 いや、知らんがな。ま、そんなことより。


「よし、コレット。俺は食材探してくるから、今日は休業だ」

「ええぇ~またお休みですかぁ! なんか休日の方が多い気がしてきた……」


「ふむ、ホワイト店舗で良かったな」

「いやもう、ホワイト通り越して透明店舗ですよ!? 実在してるのかわからないお店になっちゃいますよ~」


「おお、コレットもトークに磨きがかかってきたな。よしよし、今日はコレットがまだ食べたことが無さそうなの探してくるか」

「え~っと、トークよりも接客したいんですけど……でも!

 食べたことないモノ! ちょっとワクワクします~行ってらしゃ~い(じゅるり)」


 こうして俺はコレットにじゅるりと送り出された。




 ◇◇◇




「さて、今日の夕飯は何がいいかな~♪」


 俺はとあるダンジョンに潜っていた。「魔の洞窟」と呼ばれるダンジョン。ド田舎食堂のある辺境の町メタリノから、さらに奥地に入った場所にある。

 冒険者たちも滅多に訪れない為、食材が荒らされにくく俺のお気に入りスポットのひとつなのだ。


 気楽に包丁を腰に差し、俺は洞窟の暗闇を下へ下へと進む。


 ある程度下層に差し掛かったとき、洞窟の奥で「ぱあっ」と白い光が弾けた。


 目を凝らしてみると……人影だな。


 あ~~もしかして先約がいたのか……。


 洞窟の奥、光の中に立っていたのは―――まるで春の芽吹きをそのまま人の形にしたような美少女だった。


 緑の髪がゆるやかに波打ち、発する光りの反射で翡翠のようにきらめいている。

 瞳もまた、同じ色合いのエメラルドグリーン。


 年の頃は17~8ぐらいか。背丈は俺の肩ぐらい160センチほどか。

 神聖な白の法衣を身にまとっているが、その下のラインがデカすぎてなかなか罪深い。

 神の恵みというやつだな。


 聖属性ぽい魔法に、あの教会にいそうな法衣。こりゃそこそこ上位の神官殿か。


 彼女は杖を握り、多数のゴーストに囲まれている。彼女の他に仲間がいる気配はしない。

 四方八方から黒い影がうごめき、やつら特有の耳障りな呻き声をあげていた。


「もしかして取り込み中か?」


 俺が声をかけると、彼女がビクッとしてこちらを振り返った。

 大きな綺麗な瞳が驚きに見開かれる。


「ええ!? コック帽被ったおじさん!? なんですかこんなところで! 危ないから逃げなさいっ!」


 そう叫ぶや否や、彼女は杖を振りかざした。


「……この地を穢すものよ。女神グラティアの聖なる光のもと、その罪を悔い改めよ。

 聖女ロメリーが命じます――――――」


 両の手を胸の前で組み、瞼を閉じる。

 淡く白い光が彼女の身体を中心に、じわじわと広がっていく。


「消えよ!――――――浄化(ピュリフィケーション)!」


 その一言とともに、光が弾けた。

 黄金の光が散らばり、周囲のゴーストが悲鳴をあげて霧散する。

 彼女を囲んでいたゴーストたちは次々と消えていった。


 ちなみにこの世界のゴーストとは、霊体という特殊なボディをもつ魔物のことを指す。

 なので、前世で言うところの人の幽霊とか地縛霊とはまったく別物の存在である。


 なるほど、今朝コレットの言ってた聖女さまってこの子のことか。

 さすが聖女、すげぇ魔法を使うんだな。


 だが俺の感想はそんなことより。


「……ああ、もったいねぇ……」


「もったいない!? なにがですか!?」

「せっかくの上等な食材を、ただ消すなんて……」


「しょ、しょく……ざい??」


 聖女ロメリーが絶句して固まる。

 だがそんな彼女にはお構いなしに、ゴーストの群れはさらにその数を増やしていく。


「くっ……なんで浄化しているのに増えるの!」


 聖女は焦った声を漏らしながらも、ふたたび杖を構えた。

 たしかに魔の洞窟といえど、これはかなりおかしな状況だ。あれだけのゴーストを倒せば、当分は出てこないだろう。にもかかわらず、ここまでゴーストどもが集中しているってことは……。


 おお、あれが手に入るかもしれん。


 彼女は連続で浄化魔法を放ち、額から汗を滴らせる。

 が、やがてその杖の輝きが弱まっていった。


「はぁ……はぁ……も、もう魔力が……」


 光が消え、聖女の膝が崩れる。

 本当に凄いなこの子。あれだけのゴーストをすべて浄化してしまった。伊達に聖女を名乗ってないわ。


 しかし、俺の予想が間違ってなければ、本番はこれからなんだよな。



「―――シュゥウウウウ」



 不気味な鳴き声とともに、奥の闇から巨大な影が浮かび上がった。


「う、うそ……あれはゴーストグランデ……そ、そんな」


 彼女の言うとおり、あいつはゴーストの親玉だ。

 禍々しい瘴気を吹き出して無数のゴーストを内包したその存在は、まさに親分って感じがする。


「も、もはやこれまでですね……魔力は尽きましたが、まだワタクシの生命力が残っています。これを燃やしきればなんとか……女神グラティアさま……どうか、聖女ロメリーの命に代えてこの邪を祓いたまえ……」


 震える声で祈りを捧げはじめる聖女。


 え? なにやってんのこの子。


 いやいや、もう無理すんなよ。魔力がないなら普通に逃げる一択だろ。こんなのを1人で討伐させるとか、教会はブラック企業なのか?


 俺は彼女の横に立ち、コック帽を正した。


「なあ、残りはもらっていいんだな?」

「え? あの……?」 

「あんたの魔力は尽きたんだろ? じゃ、あれは俺の獲物で文句ないよな?」


「え、獲物って? あ、この絶対絶命の危機に正気を保てなくなったんですね! 女神さま。どうか、このしがないコック帽のおじさまだけでもお救いを……」


 両手を合わせ、俺のために女神に祈る聖女。


 だが俺は首を横に振った。


「救いはいらん。俺が欲しいのは食材だ」


 腰から取り出したのは―――薄刃包丁。

 野菜を極薄に切るための、鋭い一丁だ。


「ほ、包丁!? ほんとうに頭おかしくなったんですか? 霊体相手に、そんな物理攻撃が効くわけ―――」



 ――――――スパっ!



 俺が包丁をサッと振るうと、親玉ゴーストの身体に光の切れ目が走った。

 次の瞬間、ゴーストの親玉は「ヒギィイイイ」と叫び声をあげた。



「ええぇええ! 効いてるぅうう!? てか、切れちゃってるうぅぅ!!!」



 聖女今日いちの叫び声が、洞窟内に響いた。


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